花粉症とストレス

 春先になると,花粉症の人が多く見られます。花粉症とは花粉が原因で起こるアレルギー性鼻炎とアレルギー性結膜炎のことです。さまざまな花粉で症状が起こることが知られていますが,春先に代表的なものはスギ花粉によるものです。アレルギーの診断には原因物質(アレルゲン)の吸入によって症状が起こることを確認することが必要であり,スギ花粉症以外にもヒノキ花粉や,ダニ,カビなどに対するアレルギーを合併することもありますが,くしゃみ,鼻水,鼻づまり,目のかゆみなどの症状の変動が,花粉の飛散する程度と関連しているようであれば,スギ花粉症と診断しても構わないといえるでしょう。

 治療法としては,アレルゲンの除去,減量,回避に努めることが原則ですが,限界があるのは確かです。北海道,沖縄,あるいは海外に行ってしまうのが最も確実とは言えます。原因物質を少量より注射する減感作療法も開発されてきていますが,一般的には薬物療法が主流となっています。

 内服薬として,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬,ステロイド薬,漢方薬などがあります。点鼻薬,点眼薬も用いられます。

 抗ヒスタミン薬は薬局で売られている「鼻炎の薬」にも含まれている成分で,ヒスタミンという科学伝達物質の作用を阻止することで,症状をおさえるのに即効性がありますが,眠気や口・のどの乾く感じが出るのが難点です。全身の倦怠感もみられることがあります。

 抗アレルギー薬は化学伝達物質遊離抑制薬であり,病院・診療所での処方が必要です。効果が出てくるまでに1,2週間かかるので,花粉飛散の初期から服用するのが重症化の予防に有用ですが,抗ヒスタミン作用も兼ね備えた薬もありますので,これらは症状に対して用いることがあります。1日1回の服用ですむものあります。点眼薬,点鼻薬もあります。

 花粉の飛散量が少ない年には症状が軽くてすむことも期待できますが,翌年以降,自然に治るということは少ないので,花粉の飛び始める2月下旬よりも以前から抗アレルギー薬の服用を開始し,花粉が飛ばなくなる4月まで服用を続けるのが適当と考えられています。

 ステロイド薬を,とりわけ点鼻薬として用いることも少なくありません。医師との相談の上,うまく使うと,高い治療効果が得られます。

 薬局で売られている点鼻薬には血管収縮性の成分が含まれているものがありますが,これは連用することで鼻づまりが悪化してしまうこともありますので,花粉症が毎年起こるようであれば,病院・診療所を受診したほうがよいかと思われます。

 心身医学の分野では心理的ストレスがアレルギーの発症や経過に影響を及ぼすことが古くから知られています。例えば,気管支喘息は代表的なアレルギー疾患ですが,バラの花粉で喘息発作の起こる人が造花のバラでも発作を起こすことが19世紀に報告されています。九州大学心療内科の池見酉次郎元教授らも,ウルシで皮膚炎(かぶれ)を起こす患者に「ウルシの液を塗ります」と言って,ウルシの成分が含まれていない液を塗ることで実際に皮膚炎が顕微鏡的にも起こることを報告しています。(池見酉次郎『心療内科』中公新書)

 アレルギー性鼻炎についても,アレルゲンの皮内反応(アレルゲンを皮内注射して皮膚の反応をみる)で陽性ではあるが,鼻粘膜誘発反応(アレルゲンを鼻粘膜に摂食させてくしゃみ,鼻水,鼻の粘膜の変化をみる)では陰性であった患者に困難な課題を与えることで3分の2の患者に鼻粘膜反応の陽性化がみられたとの報告があります。

 すべてを心理的ストレスによるものということはできませんが,睡眠不足や疲労,飲酒などによって体調を悪くすることが,症状を悪化させることもあります。また,症状を放置することで睡眠不足になったり,イライラしたりすることで,全身が過敏になり,より強く症状が出るという悪循環に陥ることも考えられます。適切な治療をおこなうことで症状を軽くするとともに,日常生活にも注意が必要です.

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文責  山中 学 (やまなか がく)
心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.12 1998 SPRING