抗不安薬の効果と副作用 〜その1〜 パニック障害の治療に使われる主な薬は、大きく分けて2種類、抗うつ薬と抗不安薬があります。今回はこのうち抗不安薬の効果と副作用についてお話しします。前回述べたように、薬物療法では患者さんからの情報のフィードバックが重要です。指示通り服用したうえで、起きた変化……良くなった点、良くならなかった点、副作用と思われる症状など……を必ず医師に報告して下さい。以下の知識はそのために、患者さんが自分自身をモニターするうえで役立つと思われます。 <効き目が早く確実なベンゾジアゼピン系抗不安薬> パニック障害の治療によく使われる、ソラナックス(コンスタン)、ランドセン(リボトリール)などは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬と言われます。これらの薬は、パニック発作にも予期不安にも有効で、且つ効果の発現が早く確実なことが特徴です。ソラナックスの方はのんですぐ効果が現れ、そのかわり効果の消失も早いので、1日3〜4回の服用が必要です。ランドセンは効果の持続が長く、1日1〜2回の服用でよいとされています。ランドセンをベースに、ソラナックスを不安時頓用薬として用いるという方法も考えられ、私はこの組み合わせをときどき用います。 メイラックス、ワイパックス、レキソタン、セルシン(ホリゾン)なども、やはりベンゾジアゼピン系抗不安薬の仲間で、パニック障害のいろいろな不安症状に有効です。これらの薬は化学構造が類似しているためこう呼ばれるのですが、基本的な薬理作用も共通していて、抗不安作用のほかに、催眠鎮静作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用などがあります。これらの作用は眠気、ふらつきなどの副作用と関係しています。 眠気、ふらつきは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬に見られる最も多い副作用です。眠気については、睡眠薬の大部分もベンゾジアゼピン系ですから、当然と言えば当然ですが、ふつうは薬を続けているうちにだんだん慣れてきて、日常生活に支障が出るほどではありません。それでも眠気が強い場合は、量を減らすか、就眠前に服用するか、他の薬に変更します。眠気までいかなくて、ぼんやりした感じ、注意散漫、集中力低下などが出る場合もあり、自動車の運転はひかえなければなりません。 ふらつきの方は筋弛緩作用によるものです。お年寄りの場合は転んで骨折したりしないように気をつける必要があります。単なるふらつきでなく、運動失調やろれつがまわらなくなったりすることもあります。逆に、筋緊張性頭痛、肩こり、腰痛などは、筋弛緩作用によって改善することがあります。そのほか、脱力感、疲労感、倦怠感(だるさ)なども、薬の服みはじめによく見られます。薬を続けていても軽快しない場合は、やはり減量や他剤への変更で対処します。 以上のような副作用は、大部分、薬を続けるうちにだんだん慣れてくるものですが、もう一つの副作用の「依存性」の方は、長く続けているうちに形成されてきます。「依存」というのは、その薬の効果を求めて、またはその薬がない場合の苦痛から逃れるために、薬を継続的に摂取したいという、抑えがたい欲求や行動が起こることを言います。麻薬や覚醒剤などが一般的ですが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬でも、長く続けていると、軽いけれども依存(習慣性も同義)が起こることが分かってきました。 さいわい、治療で用いられるような量では、連用しても急にやめないようにさえ気をつければ心配はありません。しかし何ヶ月も続けていた薬を急にやめたりすると、効果が切れるだけでなく、離脱症状または退薬症状と言って、薬と体との間で保たれていたバランスが崩れるために起きてくる症状が現れることがあります。不安、不眠、イライラ、吐き気、知覚異常、けいれん、などです。薬をのめばすぐ治りますが、それでは依存から抜け出せません。 どうすればよいかと言うと薬をいっぺんにやめずに、だんだんに減らしていけばよいのです。時間をかけて薬の量や服薬回数を減らします。また血中半減期の短い薬から、長い薬へ切り替えるという方法もあります。いずれも医師の指導のもとに、慎重に行う必要があるので、素人判断は禁物です。症状がよくなって、そろそろ薬をやめても良いのではないかと思ったら、急にやめずに、必ず主治医に相談して下さい。たいていは時期尚早な場合が多いものです。 「依存性」は薬のためだけとも言い切れません。病気のために憶病になりすぎてしまって、薬から離れられないという精神的な依存もあります。この場合は精神療法や行動療法が必要になってきますが、根本的には薬を絶ちきることへの患者さん自身の勇気の問題です。ただしその勇気がなくても、量が少なければ、長く続けていても実害はありません。ベンゾジアゼピン系抗不安薬はそれほど安全な薬です。 今回はここで紙数がつきてしまいました。次回はベンゾジアゼピン系抗不安薬と他の薬との併用の問題。アルコールとの関係。妊婦や授乳と薬との関係などについてお話しします。 文責 竹内龍雄 帝京大学医学部精神神経科学教授(市原病院) ケ セラ セラ<こころの季刊誌> |