抗不安薬の効果と副作用 〜その2〜

 前回はパニック障害の治療で用いられる二大治療薬のうち、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果と副作用について、基本的なことをお話ししました。主要な副作用は、眠気、ふらつき、依存性ですが一般的には安全性の高い薬物で、少量であれば長く続けていても実害はなく、安心して服用できる薬であることを強調しました。しかしいろいろ注意しなければならない点はあります。その一つが他の薬や薬物との相互作用(のみ合わせ)の問題です。今回はそのことについてお話しします。

  アルコールとの併用はひかえること

 ソラナックス(コンスタン)、ランドセン(リボトリール)、メイラックス、ワイパックス、レキソタン、セルシン(ホリゾン)など、パニック障害の治療で用いられるベンゾジアゼピン系抗不安薬は、すべてアルコールとの相互作用があります。抗不安薬に限らず、睡眠薬や抗てんかん薬でも、ベンゾジアゼピン系であれば同じです。

 これらの薬とアルコールとの併用によって起こる相互作用は、一言で言えば作用の増強です。アルコールの酩酊作用も薬の副作用も増強されます。その結果、中枢神経抑制(その過程で脱抑制や興奮もある)、知覚運動失調、血圧低下などが現れ、大量では生命の危険もあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬や睡眠薬は、単独では非常に安全性が高く、自殺目的で大量服薬したとしてもまず死ぬことはありません。しかしアルコールと併用すると作用が倍加され、危険なことを認識すべきです。

 では晩酌はどうでしょうか。私は自分が酒好きなせいか、患者さんの日々の楽しみである少量の晩酌を取り上げたくはありません。ただしその場合も、上記の相互作用に注意し、量をひかえ、のむ時間をずらし、酒や薬をのんだ後はくつろいで寝るだけにするなどの条件を守っていただきます。医師によってはあくまで禁止する人もいると思います。アルコールとベンゾジアゼピンとの間には「交差依存性」といって、両方を摂取していると、より依存が出来やすくなる傾向があります。やはり併用は避ける方が無難と言えるでしょう。

  胃薬、風邪薬との併用も注意

 通常の健胃薬なら問題ありませんが、胃・十二指腸潰瘍の治療に用いられるシメチジン(タガメット)という薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の代謝や排泄を阻害し血中濃度を高める作用があり、注意が必要です。また風邪薬の中には眠気をもよおす成分が含まれていることが多く、ベンゾジアゼピンの催眠鎮静作用と相まって、眠気が強く現れる可能性があり、やはり注意が必要です。

  妊娠、授乳中は原則として服薬は避ける

 胎児への影響はどうでしょうか。この点に関しては安全性が確立されているわけではなく、影響が絶対ないとは言い切れないので、服薬は避けるに越したことはありません。しかし奇形などの可能性はごくわずかなもので、「薬を飲んでいたとき妊娠したので中絶した方がよい」などと考える必要はありません。早い話、アルコールやタバコの方がよっぽど有害です。特にタバコは「百害あって一利なし」で、受動喫煙でも有害ですから、周囲の人も禁煙すべきです。

 妊娠を予定したり妊娠とわかった場合は、薬を漸減のうえ中止するか、症状が出たときだけ頓服的に服用するようにします。どうしても使用が避けられない場合は、胎児への影響が大きいと考えられる妊娠の初期1/3(最終月経の初日から約100日間)は、減量するか服用しないようにします。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、胎盤を通過し、母乳へも移行します。母親が薬をのんでいると、胎児や乳児も一緒にのんでいることになるので、副作用や退薬症状が出る可能性もあります。

 妊娠、授乳中こそ、薬を使わない認知療法や行動療法に挑戦しましょう。薬ほど簡単ではありませんが、良くなったときの喜びは大きいものです。妊娠中や授乳中は、ホルモンの関係で病気が軽快するという説もあります。頑張って下さい。

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文責  竹内龍雄 

 帝京大学医学部精神神経科学教授(市原病院)

 ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.15 1999 WINTER