現代社会で増える新型うつ病――その対策と治療法

心療内科・神経科 赤坂クリニック理事長 貝谷久宣

Credentials No.37 October 2011 P-9

 うつ病でもう一つの話題は、近年、従来のうつ病とは異なる新しいタイプのうつ病が増えていることです。これは「非定型うつ病」と呼ばれ、現れる症状も典型的なうつ病とは大きく異なります。このタイプはパニック障害などの不安障害とも関係が深く、しばしば併発しやすいとされます。ここでは非定型うつ病やパニック障害に詳しい精神科の貝谷久宣先生に、「わがまま病」「怠け病」などと誤解されがちな新型うつ病を中心に、精神疾患の現状について解説していただきます。

 
新しいタイプの非定型うつ病が急増

 昔は、うつ病の患者さんというと、自己犠牲の精神で、自分を責め、相手に失礼のないように振る舞うという人がほとんどでした。現在はそうした昔型のうつ病の患者さんは、当クリニックでは100人に1入いるかどうかになっています。専門家の間でも「うつ病とはなんだったのか」といわれるほど、従来のうつ病とは病像がまったく違うタイプのうつ病が、都市部の若い世代代を中心に急増しているのです。こうした新しいタイプのうつ病は、従来の典型的なうつ病(定型うつ病)に対して、「非定型うつ病」と呼ばれます。
 非定型うつ病は、専門医の間でもその存在がまだ十分に知られているとはいえません。単にうつ病と診断されたり、双極性障害(躁うつ病)やパーソナリティ障害などと診断されたりすることもあります。軽度な場合は、わがままな性格などと見なされることも少なくありません。しかし、きちんと診断されないと適切な治療ができず、病気がこじれて長引いてしまいます。うつ病が怖いのは、放置したり、こじらせたりすると自殺に至ってしまうことです。日本人の自殺者数は1998年以後、13年連続で毎年3万人を超えていますが、自殺者の7割が「うつ状態」にあったといわれています。自殺者を増やさないためにも、うつ病対策はきちんとなされなければいけないのです。

 
うつ病とは正反対の非定型うつ病の症状

 非定型うつ病は1959年、イギリスの研究者が、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)のイプロニアジドという薬が劇的に効くうつ病のグループを報告してから、その存在が知られるようになりました。そのグループは、うつ病治療によく使われていた三環系抗うつ薬があまり効かず、症状にも従来のうつ病とは違う特徴がありました。その後、研究が進み、米国精神医学会の診断基準DSM−W(1994年発表)に初めて記載されました。非定型うつ病は病気として認められてから比較的新しいため、まだ正しい診断が行われていないのが実情です。非定型うつ病の研究が日本よりも進んでいる欧米でも、非定型うつ病をきちんと診断できた医師は34%に過ぎないとの報告もあります。