うつ病の理解 −家族や周囲の者への影響−
うつ病は家族全員に影響を及ぼします
誰もが一時は悲しい気分や"ゆううつ気分"を経験するものです。それは日常生活において当たり前のことです。悲しい気分や否定的な感情は生活に支障をきたす場合はうつ病という医学的な病気である可能性があります。
うつ病はその人に係わる人、家族そして恋人などに苦痛を与えることがあります。うつ状態にあるとき、仕事に行ったり、日頃の行いを続けたり、朝起きるのもおっくうだと思ったりします。ときに、治療を求めることもできなくなったりします。うつ病患者を愛する人達は、"隠れた患者" なのです。何故ならば、うつ病が生活に及ぼす影響は見落とされ、重要視されないからです。うつの人は愛する人に対して苛立ちや罪悪感やさらには怒りをあらわにすることがあるので、愛する人はその人を見下してしまったり、理解に苦しむことがあります。こういった感情を抱くのはごく自然なことですが、良い対処法を知っていると役に立ちます。
幸いにも、うつ病は治る病気です。そしてこの疾患とその治療法についてよく知っておけばもっと楽になれます。この冊子はうつ病の実際について述べ、うつ病が周囲に与える影響とどう取り組むべきか実践的に提案します。
家族の絆は非常に大切
家族(配偶者を含む)の支援は、この病気をコントロールするために不可欠です。
うつ病の発見・・・ときに思いがけない症状あります
うつ病はその人の感情、人生観、態度、睡眠や食事、エネルギーレベルなどの身体機能に影響を与えます。うつ病の人はたいてい常に悲しみ、心配になり、しばしば怒りやすくなったり不安が強かったりします。多くのうつ病の人は自尊心が低く、悲観的になることがあります。(つまり、"私にはできない""私にはやり遂げれない"と思ってしまう)
うつ病にはさまざまな症状があります。簡単に気づくものもあれば、そうでないものもあります。うつ病の兆候は、その人の日常動作の変化です−例えば、怒りやすくなったり、内向的だったり、食欲不振、睡眠障害があらわれます。うつ病に共通の症状は以下の通りです。
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悲しみ、憂うつ気分、気落ち |
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楽しかったこと(例えば、性行為や他の活動)に対する興味の喪失 |
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食欲減退、体重減少(または、体重増加) |
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睡眠障害または過度の睡眠 |
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考えが進まなかったり、理由なくイライラする |
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疲れ易い、気力低下、せかせかする |
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自分が価値のない人間だと思う、罪悪感 |
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集中力、思考力、記憶力、判断力の低下 |
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自殺念慮または企図 |
うつ病 二つのケース
人によってうつ病の症状はさまざまです。例えば、19歳のジョアンの場合、疲労感はないものの、仕事や付き合いを続けることが困難であると医師に訴えてきました。母親は彼女の睡眠時間が普段7から8時間なのに10から11時間になったと伝えました。ジョアンは頭痛や他の痛みと消化器症状を訴えていました。驚くべきことかもしれませんが、このような身体的症状はうつ病をもつ患者によくある症状です。
51歳のマークは、彼は常に"不満が多く"、妻といつも口喧嘩をしている気がする、と医師に伝えました。そして妻が彼に対して批判的で敵対心を持ち、怒っていると。さらに、夜も眠れず、体重も減少しているとのことです。苛立ちの増加や口論はうつ病に伴ってよく起こります。ですから家族にうつの人がいると、これが家族の行動や感情、夫婦関係や家族関係に多大な影響を与えるのです。
通常、最低2週間の間にほとんど毎日続く症状が5つ以上あって、そのうちの一つは必ず抑うつ気分・興味または喜びの喪失がある場合に、うつ病と診断されます。小児や青年では悲しいというよりもむしろ怒りっぽくなります。もし、これらの症状のうちひとつでも現れ、それが軽減しないのであれば、それがうつ病の症状であるかどうか精神科医か心療内科医に相談する必要があります。
どんな人がうつ病になるのでしょうか?
いかなる人もうつ病になります。ある特定のグループほどうつ病になる可能性が高いことがあります。例えば、女性は男性の約2倍もうつ病にかかりやすいことが分かっています。小児や10代の子供もうつ病になることがあります。青年期のうつ病の症状は成人の症状と似ていますが、逸脱行動や不登校がみられます。
米国では年間約180万人の人がなんらかの形のうつ病を患い、それ以上の家族の人々がうつ病の被害をこうむっていると感じています。幸いなことに、多くの場合治療によってうつ病の症状の程度や罹病期間を軽減することができます。
うつ病の原因
うつ病の原因は一つではありません。生活におけるある特定の出来事、例えば離婚や愛する人の喪失などをきっかけとしてうつ病になることがあります。しかし、暮らしがうまくいっていてもうつ病になる人もいます。うつ病のなりやすさには家族性があるので、その多くは遺伝的要因が考えられます。もし、一卵性双生児のうちの一人が大うつ病であった場合、双子のもう一人が人生のいずれかの期間においてうつ病の症状を発現する確率はおおよそ50%です。さらに、大うつ病患者の子供、両親、兄弟は、大うつ病でない人と比べ2〜3倍このタイプのうつ病になる確率が高いのです。
それらのうつ病の発現には身体的要因も関係しており、重要な化学物質(神経伝達物質と呼ばれ、セロトニンやノルアドレナリンンがこれに含まれます)のバランスが崩れたり、脳内に送られる信号が乱れることによってその症状が引き起こされると考えられています。最近の抗うつ薬による治療の多くは、これらの神経伝達物質の量を制御することで効果を発揮します。一方、ある種の内科的疾患、特定の薬物の服用および過度のアルコール摂取はうつ病を引き起こします。
うつ病の原因は人によって様々です。したがって、家族の方はうつ病がその人の"責任"ではなく、ただ単に"努力する"ことでは解決しないことを認識することが大切です。そして原因が何であれ、うつ病の治療を受けた人の多くは数週間で症状が改善します。うつ病はその人の弱さや制御の欠如によって起こるのではなく、治療が可能な医学的な疾患なのです。
うつ病には色々な種類があるのでしょうか?
そうです。大うつ病は、以前楽しかった事に対する興味の喪失、悲壮感、憂うつ気分、元気がない、そして以下の症状のうち最低3つを示します。
体重増加・減少、不眠症・過眠症、精神運動抑制・焦燥、疲労感、自分が価値の無い人間だと思う、集中力の欠如、自殺を考える。
他のタイプの気分障害をもつ人もいて、双極性障害あるいは躁うつ病が知られています。この疾患では一回以上の躁エピソード(他の症状に加えて、ふつうではない持続的な気分の高揚・爆発、易刺激性)が存在し、大うつ病と合併することもあります。
気分障害には効果的な治療法があります。最も適切な治療を決定し選択肢の見直しを相談するには精神科医や心療内科医が一番良いでしょう。薬物治療が施されるならケアプランの中に内科医も加わります。
治療の重要性
うつ病は治療によく反応します。今日、効果的なうつ病の治療法がたくさんあり、多くのうつ病患者は治療によって症状が改善します。薬物治療の最終目的は症状をコントロールし疾患を治療することです。それはうつ状態を改善し、患者を通常の生活リズムに戻すことです。精神療法は患者さんとその家族に行動様式とストレス対応法を学ばせます。うつ病と喜びや悲しみ怒りや恐れについて資格のあるプロと話し合う精神療法は、症状を改善して治療することができます。各個人によって治療計画は異なります。その人その人の状況に合わせて治療効果が評価されるべきでしょう。ときに、薬物療法と精神療法の併用は短期的または長期的な改善に有効です。
改善するのにどのくらいの期間を要するのでしょうか?
多くの場合、治療を始めてから3〜4週間で症状の改善を経験します。しかし、うつ病からの回復は必ずしもスムーズではないことを認識することも大切です。つまり、うつ病の患者さんは症状が消失し始めた後でも"良い日"と"悪い日"の両方を経験する傾向があるのです。
治療の専門家は症状が改善したかどうかを判断するために毎日日記をつけることを提案すると思います。例えば、エモリー医科大学、精神医学と行動科学科助教授のドクターケルシーは患者の症状を見逃さないために簡単なスケールを使用しています。このスケールでは、0−今までで一番気分が悪い、1−いつも気分が悪い 2−ときどき悲しい/自分は不幸だと思う 3−いつも幸せだ 4−いままでで一番気分が良い を示します。睡眠パターンやそれ以外の日常活動についてメモをざっと書きとめることも効果的です。
うつ病の患者さんの中には悲しみや疲れが激しすぎて自分の症状をモニターすることができない場合があります。(すくなくとも治療のはじめの数日間か数週間)配偶者や家族によるこのような症状把握は特に役立つものとなるでしょう。
うつ病は再発することがあります。しかしながら、薬物治療の継続は症状のぶり返し(悪化および再発)防止効果があると報告されています。治療は安定状態にある確率を高めます。うつ病の治療には薬物治療、精神療法、およびそれらの併用療法があります。
うつ病を治す薬は抗うつ薬とよばれます。抗うつ薬には多くの種類があり、それぞれが少しずつ違った効果を現します。その人にとって一番効果が良く、服用しやすい抗うつ薬を見つけるのに時間がかかることを家族の方が理解することが重要です。辛抱強く待ち、効果的な治療法が本当の利益を与えてくれることを覚えておいてください。
抗うつ薬による治療は、うつ病に関連する脳内化学物質のバランスの崩れを正常化する働きがあります。はじめに述べたように、これらの薬は脳内のシグナルとなる特殊な化学物質(神経伝達物質)の量をコントロールすることで効果を発揮します。抗うつ薬は数多く存在します。古い治療には塩酸アミトリプチリン、塩酸デシプラミン、塩酸ノルトリプチリンなどの三環系抗うつ薬や、硫酸トラニルシプロミン、硫酸フェネルジンなどのモノアミン酸化酵素阻害剤(MAOI)があります。古典的な環状抗うつ薬には塩酸トラゾドンや塩酸ブプロピオンがあります。
ここ数年、新しい抗うつ薬が数多く登場しています。これらは塩酸フルオキセチン、塩酸サートラリン、塩酸パロキセチンなどのセロトニン選択的再取り込み阻害剤(SSRIs)や塩酸ベンラファキシン、塩酸ナファドゾンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤といった新しい薬があります。最近では、これらの薬剤がいずれも効果的で認容性に優れていることから、うつ病の治療において繁用されています。これら抗うつ薬についての詳細情報はかかりつけ医が提供してくれます。
抗うつ薬の副作用は何ですか?
三環系抗うつ薬とMAOIは眠気、口渇、体重増加、かすみ目、便秘、めまいなどの副作用があります。MAOIはある特定の食物や薬物と併用すると血圧上昇等の重大な副作用が発現します。MAOIを服用している患者は医師の指導にしっかり従うよう注意をはらわなくてはなりません。
新しい抗うつ薬は人によっては悪心、軟便、下痢、振戦、不眠や他の副作用が発現することがあります。多くの副作用は時間が経つと減少または消失します。全般的に、新しい抗うつ薬はほとんどのうつ病の人に対して認容性があるのです。
副作用が起こった場合、医師に伝えることが大切です。投与量を調節したり食事と共に(または食事抜きで)薬を摂取するなど、少しの変化を加えることで副作用を軽減することができます。一方で、多種類の薬剤が存在するので医師が薬剤変更を希望するかもしれません。副作用が発現したうつ病の患者さんには、家族は医師に副作用を訴えるように指導することが重要です。
はじめにも述べたように、精神療法も症状を軽減しうつ病を治療します。カウンセリングではカウンセラーは患者と患者にとって重要である、経験、人間関係、出来事、気分、知覚、について話し合います。これにより問題点が整理されます。うつ病は家族に影響を及ぼすため、すべての家族が患者と共にカウンセリングに参加することが有用なことがあります。うつ病の患者又は家族はこのような機会を作ることを担当医に申し出ることができます。なかには、軽症うつ患者のように、カウンセリングのみを治療として必要とされる人もいます。精神科医又は心療内科医が個々の治療計画において精神療法が必要であるか否かを判断してくれます。
もし私がうつ病だったとして、私の問題をどう説明すればよいでしょうか?
うつの症状に関連したスチグマ
は多くの人の治療の妨げになっています。しかし、この冊子にも示しているように、効果的な治療法はたくさんあります。ですから、安心して相談できる内科医、精神科医、または心療内科医を見つけることが大切なのです。うつ病が家族生活全面的に影響を及ぼすことから、家族の毎朝の生活リズムから夫婦間の性生活などデリケートな部分まで話し合わなくてはならないかもしれません。解決策を見つけることが重要です。これはあなたの健康と生活のことなのです。うつ病を学び知ることがうつ病に対応していくために必要なのです。
話し合いを始めるために、カウンセリングのアポイントやクリニックに訪れる前に質問事項をメモしておくと良いと思います。この冊子の最後の部分が質問事項や問題点をざっとかきとめておくのに役立つと思います。そして、訪問の際にはメモを取るのを躊躇しないでください。そのほうが後になって医師が言っていたことを思い出すことができます。
家族の一員として私に何ができるでしょうか?
うつ病の患者さんのためにできる重要なことの一つは、患者さんの支援、協力的な環境作りです。うつ病の症状がすぐに消退することを望むのは当然のことですが、患者個人のペースで経過していくことを理解しなくてはなりません。自分も患者も失望させないようにしてください。また、相手に対して"元気を出す"ようにプレッシャーをかけることは避けてください。
はじめの治療が必ずしもうつ病の最良の解決策とは限らないですし、試行錯誤の過程に時間を要することがあることを覚えていてください。患者さんを勇気づけてあげてください。進歩が見られたらどんなことでもメモしてください。数週間経過しても症状が不変または悪化したら医師と再検討をするか、別の医師のセカンドオピニオンを求めてもよいでしょう。自分との相性の良い医師と最適な治療法が見つかるまで、二つ以上の治療を受けたり、2人以上の精神科医または心療内科医にかからなければならない人もいます。
うつ病症状としての失望感が、医師の診察や薬剤服用を拒ませることがあります。医師の指示に従うように手助けをしてあげてください。
最後に、物事に敏感になってください。可能な限り患者さんと普段と変わらず接しますが、何事も悪くないかのようにふるまうのは避けてください。あなたがうつ病を否定していないと患者はあまえてしまうからです。
治療法を受けることが、改善の第一歩だということを覚えておいてください。また、症状の改善は大きな目標への第一段階なのです―うつの症状に係わる問題が解決されると、人間関係が改善し、うつ病へ導いた人間関係あるいはうつ病によって引き起こされた人間関係がよい方向へ変わっていきます。これらのステップは時間を要しますが、より健康的で幸せな人生へと導くことでしょう。
うつ病は行動や人間関係にどのような影響を与えるか
うつ病はしばしば行動の変化を伴います。うつ病の患者さんは、他人との交際が困難になるといいます。さらに、他人の行動に微妙な反応を示します。例えば、うつ病の患者さんはアイコンタクトが少なく、小声でゆっくりとした口調になるという研究報告があります。また、単調なしゃべり方になります。彼らの会話は悲壮感と無力感などのマイナス思考が多くみられるようになります。
うつ病は家族の行動パターンにも大きな影響を与えます。例えば、うつ病は夫婦間の口論を増加させます。うつ病患者の配偶者はその人に対して苛立ちを感じる傾向があります。全般的に、うつ病患者とその配偶者との相互関係では怒りと敵意が通常よりも大きくなるのが特徴です。
夫婦間の問題はうつ病の経過に大きな影響をもたらします。しかし、配偶者の強いサポートがあると、うつ病の症状改善がより早くかつ持続的なものになります。同様に、家族のサポートはうつ病の症状を大きく軽減します。一緒に取り組むことによって家族全員がうつ病患者の気持ちを理解し、最終的に家族の絆を強化することにつながっていきます。
うつ病は親と子供との関係にも影響を与えます。ある報告では、うつ病の親はその子供と接するのが困難なため育児の喜びが少なくなると言われています。うつ病は子供の精神的、社会的発達に長期的な影響を与えます。
気分が人間関係にどのような影響を与えるか理解すること
否定的な行動パターンを作り出すこと。仕事を終えた夜、ジェニファーは夫のサムにその日の仕事はどうだったか聞きます。サムはいつもリラックスして仕事のこと忘れたかったので、彼は"すべては順調だよ、ハニー"などと言ってなるべく返事を短く済ませようとしました。ジェニファーは彼がわざと今日一日の出来事を伝えていないのだと思いました。うつ病は否定的思考を助長するので、ジェニファーは、夫が人生を共有する相手として自分は適格でないと思っているのではないかと思い込みはじめ、拒絶感を味わうようになりました。このことがジェニファーの絶望感と自尊心の低下を助長してしまったのです。
うつ病患者に過度の償いをすることによる憤慨。結婚10年後、スーザンはニコラスの会社の異動に伴い、新しい町に引越しました。教師のスーザンは新しい町での再就職に苦労していました。引越しの数週間後、彼女はだんだん就職活動に対して消極的になり、家からほとんど出なくなりました。彼女は新しい土地で知り合いがほとんどいなかったのです。ニコラスが新たな同僚と接している一方でスーザンはほとんどの時間、さびしく孤独感を感じていました。6ヶ月もたつと、スーザンは疲労を理由に一日10〜12時間も寝ていました。彼女はうつ病と診断されました。彼女を助けるために、ニコラスは週3回のジョギングをやめ、スーザンに協力的でいようとなるべく家にいました。その結果、ニコラスは彼女に対して恨みや怒りを感じるようになってしまいました。
家族の対応や支援はうつ病の経過に大きな変化をもたらすという報告があります。それが適切であれば家族全員が治療過程に携わり、そして家族が支援できない場合、可能であれば友人の力を借りることが励みになります。家族治療やカウンセリングを利用する家族もあります。夫婦や家族がカウンセラーと一緒に取り組むことで、自宅でより効果的なコミュニケーション法とうつ病の対応法を学ぶことができます。また、うつ病患者とその家族のための支援団体は、保障と情報、同様な経験したことのある者からの激励を提供してくれます。
自殺の危険性への対応
うつ病の人は自殺の危険性があります。うつ病患者が自殺をほのめかした場合はすぐにかかりつけの精神科医に連絡してください。緊急事態に直面した場合は、119に電話することや救急外来に運ぶことを躊躇しないでください。このような状況下でパニックにならないことが重要で、何もせずこの危機が過ぎるのを待つことはやめてください。本人と直接対話できるような状態を確保し、質問をなげかけるようにしてください.うつ病の人に彼や彼女の人生がいかに重要で価値のあるものかを知らせてください。このような自殺念慮はうつ病の典型的な症状で、効果的な治療法があることを認識させてください。
自殺を防ぐことが必ずしも可能とは限らないので、銃やアルコール、不必要な薬を家に置かず、その危険性を低くしましょう。家族のうつ病患者が自殺を企図した場合、その人を決して責めてはいけません。彼や彼女の感情は病気に付随する症状なのです。家族にとって、自殺企図を有する家族をかかえることに対する精神的外傷と立ち向かうためにもカウンセリングを受けるのが良いでしょう。
家族全員のうつ病に対する戦略
愛する人がうつ病の症状を経験している場合、その症状に対応するひとつの方法は、何事に対しても準備をしておくことです。それは、何が起きているか理解し、対応方法を見出し、それを利用するためにうつ病について知りその影響を学ぶことにあります。下記に示すDrケルシーの"やるべきこと""してはならないこと"がそのはじめのステップとなるでしょう。すべてが特定の状況に当てはまるわけではないのですが、その発想は独自のニーズに合ったものでしょう。これらはかかりつけ医、精神科医、セラピストなどのいずれの専門家と話し合うのにも役立つでしょう。なぜなら、彼らはその家族環境に合った提案やそのアイディアの活用法を提供してくれるからです。
やるべきこと
子供の場合はどうでしょう?
子供は親同士の関係に非常に敏感です。何か悪いことがあると反応します。さらに、ほとんどの子供がとても活発な想像力を持っています。実際よりも悪い状況を想像したり、うつ病が自分のせいだと思ってしまったりします。うつ病患者は病気について子供に直接話すか親友やその他の愛する人に話してもらう機会を設けなければなりません。どの程度まで話すかはその子供の年齢と感情の成熟度によります。
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子供に何が起こっているか話しましょう。子供がいるならば、じっくり時間をかけて状況を説明しましょう。親は子供に"最近よく気分が悪くなるでしょう?私はうつ病という病気なのよ。お医者さんがよくなるように治療してくれているの。でもしばらくはあなたと一緒に過ごす時間が少なくなってしまうかも。いつもあなたを愛しているわ。"もしくは配偶者が"ママは病気なんだよ。お医者さんがママがよくなるようにしてくれているよ。でも、たまに悲しかったり不機嫌になるかもしれない。それは君達のしたことは関係ないんだよ。ママは君達の理解と我慢が必要なんだ。" |
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子供がある年齢に達していればうつ病について勉強できるようにしてあげてください。うつ病について感じていることを話させ、質問をさせることが最終目標です。苦痛な状況から避難させたいのは当然ですが、悪いことの想像よりも彼らが完璧に理解した苦痛のほうが対応しやすいのです。うつ病についての知識がないと不可解な要求や期待、自分に注意を注いでくれないことに傷ついたり混乱してしまうでしょう。 |
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子供を家族カウンセリングの場に参加させることも考えましょう。子供がある年齢に達していれば、カウンセラーに子供の気持ちを伝えさせるとよいでしょう。これはうつ病につい学ぶためのきっかけとなるはずです。 |
してはならないこと
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うつ病の人を家族の行事や議論から外さないでください。 |
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うつ病の人のためになんでもやってあげようとするのは本人のためのように思えますが、それはやめてください。うつ病の人がすべてをこなせないときに、いくつかの責務を与えることで自尊心を改善することが出来ます。特にうつ病の人が仕事に取り掛かり始めた後であまりにも多くのことをしてあげるのは、"ダメです。それは私がやります"と言っているのと同じです。少なくともその仕事を終えるチャンスを与えるようにしてください。 |
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うつ状態による行動を責めたり批判したりしないでください。 |
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ただ単に元気を出すことをその人に期待しないで下さい。 |
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質問することを恐れないで下さい。うつ病になると、人生で初めて他人の助けを求める必要やそれを受け入れることを学ばなくてはなりません。医師、病院、図書館、地域の支援団体がうつ病の情報を提供してくれるでしょう。この冊子の後半にフリーダイヤルの電話相談を掲載しています。ここではうつ病によるストレスを改善するための機関を紹介しています。 |
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うつ病のときはできるだけ人生の大きな決断をしないでください。(結婚、離婚、転職、引越しなど) |
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うつ病の回復期に悪い習慣を直そうとすることはやめましょう。うつの症状が改善して人生における大きな決断しても良いと思うと同時に、禁煙や他の健康的でない習慣をやめるにもこれが良い機会だと思ってしまう傾向がうつの患者さんにはあります。 |
うまく対応していくための建設的な方法
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好きな人と楽しいことをする時間を増やしてください。ポジティブな感情や愛する気持ちを示すために日頃からできる小さな行動のリストを作ってください。例えば、ちょっとした仕事を終えた後に"ありがとう"と言ったり何かうまく出来たら"とてもよかったよ"と言ってあげましょう。他に、前向きに接することを増やす方法として、さりげなく抱擁したり、背中をたたいてあげる方法もあります。しかし、誠意を持って対応してください。 |
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聞き上手になること。分かりやすいのは、両者の理解を確認するために相手の言ったことを要約することです。医師やセラピストがこれらのスキルを磨くのを助けてくれるでしょう。 |
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問題解決のために一緒に取り組むことに意識的に努めましょう。配偶者や家族が、彼または彼女が要求するものを失う解決策よりも、一挙両得の解決策のほうが常によいことを認識してください。問題を解決するためのステップは問題点と解決策を定義づけること、そして解決策がニーズを満たすかどうかを評価することです。 |
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心遣いと感謝の気持ちを表現することを習慣づけ、気軽に相手を褒めたり、愛する人の「よい点」に気づくことができるようにしましょう。 |
助けをかりましょう
家族の中でうつと付き合うのは大きな「挑戦」であるかもしれません。しかし、それはお互いの距離を近づけ、お互いの強みと弱みに対する理解をより深めるためのチャンスを意味します。夫婦や家族が困難に向かって力を合わせているとき、皆が恩恵を受けます。改善までの過程で、(家族以外の)人の援助もまた貴重なものです。
Wyeth-Ayerst
Laboratories Scios
による教育サービスの翻訳
訳 白澤 彰子
監修 貝谷 久宣
米国うつ病・躁うつ病協会
730N.Franklin Street. Suite 501 Chicago, IL 60610-3526
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