赤坂クリニック
名古屋メンタルクリニック
横浜クリニック

理事長 貝谷 久宣

 いろいろなことが気になって、自分ではどうしようもないほど不安におちいり、夜も眠れない。そんな不安や心配が半年以上も続いている―――このような「全般性不安障害』と呼ばれる病気が増えています。

また!?うつ併発の「全般性不安障害」

  際限のない不安病

 「全般性不安障害」―――あまり聞き慣れない病名ですが、米国では生涯有病率が5.1%、つまり約20人に1人が一生のうちに一度以上この病気にかかっているという、思いのほか多い病気です。

 「日本で実態調査をするのはなかなか難しいのですが、最近、おそらく人数的にはかなり多いのではないでしょうか。体のあちこちがおかしいというので、内科にかかる人が多いのです」

 多くの不安障害の治療を手がけている、東京・港区にある赤坂クリニックの貝谷久宣理事長はこのように話します。

 有名な精神医学者のシュナイダー氏が、
 「人間がしばしば不安を持つことよりも、むしろ人間が大部分不安を持たずに過ごすことのほうが説明を要する」といっているように、多かれ少なかれ不安はだれもが感じるものです。

 それでも私たちは、たぶん無意識のうちに、いろんな方法で不安をコントロールしながら生活しています。

 ところが、絶えず強い不安感に苦しめられて心や体の調子が悪くなり、夜も眠れなくなり日常生活にまで支障をきたしてしまう、こんな症状が続くのが、全般性不安障害という病気なのです。

 もともとは不安神経症といわれていたこの病気は、1980年に米国精神医学会の診断基準で、パニック障害と全般性不安障害に分けられました。

 「パニック障害の場合は突然の発作で起きるのですが、全般性不安障害はいつ病気が始まったのかはっきりしていないという特徴があります。何かの心配事やストレスが関係している場合が多いようですが、それが原因というわけではなく、ひとつのきっかけにすぎません」

 家族や仕事のこと、人づきあい、健康のことなど、生活していくうえでのあらゆる出来事が不安の対象になり、いつまでも深刻に悩み、自分自身ではコントロールできないほど。

 また、現在や過去のことだけでなく、むしろ将来の予期不安のほうが強くあらわれることが多いといいます。

 「自分や家族が病気になったり、事故にあったらどうしようかとか、いつまでもクヨクヨ思い悩みます。その最たるものが、がん恐怖症。体のどこかがちょっと痛かったりすると、ひょっとしたらがんじゃないだろうかとかね」

 以前は神経質ということでひとくくりにされ、“性格的なクヨクヨ人間”として片付けられてしまった時代もあったといいます。

 男性に比べて女性のほうが1.5倍から2倍くらい多く、大半は若い女性とのこと。10代で発症することもあります。

 女性が多いのは、特有の生理的、心理的な要因、あるいは社会的に期待される性的役割からくるストレスなどが複雑にからみあって症状があらわれると考えられています。

  六ヵ月続いたら

 いま起きている症状が全般性不安障害かどうか、病院にいったほうがいいのかどうか、迷っているとしたら、それを判断するためには、米国精神医学会がまとめた「DSM-W」という基準が参考になります。

 診断のための項目は次のようなものです。

(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配が、六ヵ月以上続いている。
心配や不安がない日よりも、ある日のほうが多い。
不安や心配を自分でコントロールするのが難しい。
不安や心配は、次の
6つの症状のうち三つ以上を伴っている。
@そわそわと落ち着きがなく、緊張したり、過敏になる。
A疲れやすい。
B集中力がない、または心が空白になる。
C刺激に対して敏感に反応してしまう。
D肩こりがあるなど筋肉が緊張している。
E眠れない、または熟睡した感じがしない。

 このほか自覚症状として、「原因不明の頭痛やめまいがある」「のどのつかえがある」「吐き気がある」「手足の冷えや熱感」「冷や汗をかいたり、赤面したりする」「息苦しい」「動悸がする」などなど、患者さんの訴える症状は多岐にわたります。

 比較的、体の症状を強く感じることが多いので、最初は内科を受診することが多いといいます。

 「検査をしても内科的な病気もなく、自律神経失調症といわれて納得してしまうケースも少なくありません」

 正しい治療の機会を逃してしまうことになると、こじらせて悪化させてしまうケースが多いのが問題、と貝谷さんは指摘します。

 「本当は内科でも精神的なことも考えに入れて診るべきだと思うのですが、実際には内科から回ってこられる患者さんは一割もいません。結局なかなか適切な治療が受けられていないんです」

 驚くことに、全般性不安障害の患者さんの六割以上はすでにうつ病を併発しているか、または将来発症するといわれています。

 パニック障害の発作を併発することも少なくないそうですから、先のチェックリストに該当するときは、早めに精神科か心療内科など専門医に相談を。

 
セロトニンが関連

 「治療は基本的には薬物療法が中心になります。暗い舞台はまず照明をつけて明るくするところから始めないとだめですよね。まずクヨクヨ考えすぎることを治すのを第一に考えます」

 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や抗不安薬が使われます。

 「全般性不安障害には脳内伝達物質のセロトニンの働きの調節に不安定なところがあって、もともと不安・恐怖症の体質を持っている人の神経に働いて、症状を誘発する引き金になっていると考えられています。そのため脳のセロトニン神経に作用する抗不安薬が効き目が速いですね」

 薬によってかなりのところまでよくなります。だからといってちょっと手を抜くと、またぶりかえしてしまうのが、この病気の頑固なところだといいます。

 自分自身でも対処法を身につけて、心と体の安定をはかることも大事です。

 貝谷さんは、心身をリラックスさせる自律訓練法を、比較的効果のある方法としてすすめます。

 これはドイツの精神科医シュルツ氏によって開発された自己催眠法のひとつ。

 不安なときには、体に力が入っており、筋肉も緊張しています。

 そこで、意識的に筋肉の力を抜き(脱力)、呼吸を整える(腹式呼吸)方法で体がリラックスしている状態を作り出すのです。

 「私たちの心と体は、心身相関といって、お互いに影響しあっていますから、体をリラックスさせると、精神交互作用によって心もリラックスしてきます。そのことで心の平安が得られ、筋緊張性の頭痛や不眠の解消につながります。心はコントロールするのが難しい状態でも、体のリラックスは自分の意思でできますから」

 実際にポリグラフで調べると、心臓の音がゆるやかになり、筋電図にも効果があらわれて、リラックスしていることが確かめられるとのことです。

  まず生活改善から

 心身の調子を整えるには、毎日の過ごし方も大切です。貝谷さんは、生活指導も治療の一環として取り入れています。

早寝早起きをして規則正しい生活をする。
 「最近は夜更かしをして昼夜逆転の生活をしている人がとても多い。人は夜きちんと眠るようにしないと、体の正常なリズムが乱れて、症状を悪化させます。早起きをして外に出て太陽にあたる生活をすることが重要なことなんです」

適度に体を動かす
 「毎日の生活のなかで、できることをするのが大事なんですね。ボクは若い人に毎日掃除機をかけるように言ってます。でも実際にやれる人はほとんどいない。少しでもきれいになれば気分もよくなるし、家族に感謝されて、精神的にもいい影響がありますから」

過労にならないようにする。

お酒を飲みすぎない。
 アルコールは不安を解消するための手軽な方法ですが、かえってリバウンドがきて、不安を引き起こすこともあるので、要注意です。

 「どれもあたりまえのことなのですが、実行するのがなかなか難しいんです。気を使いすぎている状態がいちばんよくないわけですから、体を動かして、汗をかいて、よく眠ること。まず自分の生活を見直すことですね」

文責 ―― 岡本昌子