心の病を知る

  パニック障害

人込みで突然動悸・息切れ

日本経済新聞(夕刊)2009年12月11日

 パニック障害は電車の中や人込みで、突然の動悸(どうき)や呼吸困難に見舞われる心の病だ。ストレスや疲労がたまると起こりやすく、患者は増えているという。いつまた発作が起こるかという不安に日常的に悩まされ、うつ状態に陥りやすくなる。


 12月5日、記者は混雑する赤坂見附駅から東京メトロ丸ノ内線に乗り込んだ。パニック障害の患者2人が参加する認知行動療法セミナーを取材するためだ。臨床心理士の小松智賀さんが「今の不安度を教えてください」と尋ねると、参加者の1人で会社員の佐藤宏さん(仮名、35)は緊張した表情ながらも「大丈夫です」と返答した。

「乗車」して治療

 「何が怖いと感じるのか考え、不安を意識しながら電車に乗ってください」と小松さん。丸ノ内線を四ツ谷駅で下車し、JR中央線に乗り換えて東京駅へ行き、再び丸ノ内線で赤坂見附駅へ戻るという約30分のトレーニングで、乗車時の恐怖感をなくすのが目的だ。

 パニック障害では動悸や息切れ、呼吸困難やめまいといった発作が前触れもなく襲ってくる。電車やエレベーターの中で起こりやすい。心臓病などを疑い、検査を受けるが、異常は見つからない。20代、30代で発症しやすく、女性のほうが男性の約2倍いる。

 日本不安障害学会会長で赤坂クリニック(東京・港)の貝谷久宣理事長は「パニック発作は病気の始まり。以前は発作そのものが重視されたが、最近は発作への不安が問題になることが多い」と話す。

 何度かパニック発作が起きると、次にいつまた発作が起きるのかと強烈な不安に悩まされ、日常生活に支障がでる。例えば、電車内で発作を経験すると、電車に乗れなくなることもある。スピーチの時にドキドキするといった社会不安障害と異なり、発作の予測ができないため、不安の連鎖が起きるのが特徴だ。

再発が恐怖に

 佐藤さんは昨年7月のある朝、出勤中のバスの中で突然胸が締め付けられるような症状に見舞われた。まるでジェットコースターに乗っているような感覚で、いても立ってもいられずパニック状態になった。その後も電車内や昼食時に同じ状態に何度かなり、また起こるかもしれないと思い、バスや電車に乗るのが怖くなったという。

 パニック時の発作は抗うつ薬や抗不安薬を服用するとよくなることが多い。脳の一部が過剰に働きすぎるために発作が起きているためだ。

 佐藤さんも薬を処方されて発作は治まった。ただ、またいつどこで起こるかもしれないという不安はどうしてもぬぐいきれなかった。

 こうした場合、認知行動療法の併用が効果的だ。病気の症状や病態を学び、自分がどんな状態にあるのか正しく理解する。また発作が起こったときの対処方法やリラックス法を教えてもらう。

 佐藤さんが認知行動療法セミナーに参加するのは3回目。今回はあえて困難な状況に自分を置く「暴露療法」と呼ぶものに挑んだ。

 再び赤坂見附駅に戻り、堂々と電車から降りる佐藤さんは「今までのセミナーで自分の状況を理解できたおかげで、電車に乗る時の考え方が変わった」と笑顔だ。

まず正しい理解

 パニック障害では不安が病気を悪化させるため、病気の正しい理解が治療への第一歩となる。病気の説明を受けただけで安心感が増し、不安を感じにくくなるといった研究結果もある。

 治療開始が遅れたり、薬物治療や認知行動療法でうまくいかなかったりするとうつ状態になりやすくなる。若い人では不定形うつ病になりやすい。不定形うつ病は一見自己中心的やわがままにみられがちで、性格が変わったようになる人もいる。

 東京女子医科大学東医療センターの山田和男准教授は「うつ病の併発はパニック障害の終点に近い段階。その前に発見して治療をすれば治りやすい」と話している。