上がり症や心配性で人が怖い!

『社会不安障害』はこうして治す

人前で何かするのが怖くて、手が震え、顔が赤くなって、心臓がドキドキする…そんな症状に悩む「社会不安障害」は、適切な治療で治せる病気です。

参考:貝谷久宣 監修『社会不安障害のすべてがわかる本』(講談社)

《指導》医療法人和楽会理事長 貝谷久宣



 社会不安障害という病名は、アメリ力精神医学界が決めた病態の新しい概念で、数年前から、日本でも耳にするようになりました。英語名(social anxiety disorder)の頭文字からSADとも呼ばれます。
SSRIという、うつ病の薬がこの病気によく効くとわかって、2005年に保険適用が認められてから、マスコミを通じて病名も知られるようになったのです。昔から日本でも言われている対人恐怖症とほぼ同じですが、対人恐怖症に含まれていた妄想を伴う症状は入っていません。例えば、自分の視線が非常に強くて他人を傷つけてしまう、といった視線恐怖などの精神病的な症状は、妄想性障害として、社会不安障害とは区別されています。



 社会不安障害の発症しやすい年齢は、10代半ばと30代です。中学生の前後から人間が怖い対人恐怖症が現れます。引きこもりの原因の一つにもなっているようです。30代の場合は、それまで社会人としてしっかりやってきたのに、初めて管理職になって職場であいさつしようとしたら、緊張して言葉が出てこない…といったきっかけで発症したり、子供が幼稚園に入ってお母さん同士の付き合いがつらくて発症した…という例もあります。

 もともとは「気が小さい」とか「こだわりやすい」という遺伝的要素も強い気質がベースにあって、年齢によって不安の現れ方が違ってきます。最初に出るのが恐怖症で、赤ちゃんの人見知りに始まって、子供時代の犬や虫、雷などへの怖がりがそれです。次に出るのが分離不安症です。初めての幼稚園で、お母さんが帰ろうとすると怖がって泣き出したりします。その次に出るのが高い所や狭い所の恐怖症で、前出の対人恐怖症へと続きます。



 この病気の特徴の一つに、「心身相関」があります。心理状態と体の動きが密接にかかわりあっているのです。例えば、人前で字を書こうとすると手が震えるのは、字が下手で恥ずかしいからだと考えられがちですが、書道の先生にもそういう人がいます。仕事で筆を持つときは何でもないのに、結婚披露宴の記帳など、他人の見ているところで署名しようとすると手が震えてしまうのです。「手が震えるから恥ずかしい」と「恥ずかしいから手が震える」は心身相関で、震えるという体の症状を抑えれば心の緊張も治まります。社会不安障害の治療は、ここがポイントで、SSRIという薬が大きな役割を果たします。

社会不安障害の基本的な症状は、「自分に対する他人の評価が怖い」という、不安や恐怖感の心理的な問題ですが、具体的な悩みの種になるのは、不安や恐怖を感じる場面で現れる身体症状です。「顔が真っ赤になる」「汗がダラダラ出てくる」「手や体、声が震える」「心臓がドキドキする」「吐き気、ロの渇き、息苦しさ、顔のこわばり、めまい」などで、こうした症状を意識しだすと、「またあの症状が出るのではないか」という恐怖感を覚えて、ますます緊張を感じる場面への苦手意識が強まるという悪循環に陥ってしまうのです。



 SSRIは、脳の中のセロトニンという物質が減少するのを抑えることで、感情を安定させる働きがあります。もともとは、うつ病の薬として開発されたのですが、社会不安障害への効果が大きいので注目されています。SSRIを服用すると、大勢の前で話をするような場面でも、それまでのような強い緊張を感じなくなります。最低1年以上のみ続けて、緊張感の少ない状態での行動パターンが身に付いたら、SSRIをやめることができます。実際の治療では症状に応じて、SSRIのほかに、すぐに緊張を和らげる抗不安薬や、心臓のドキドキを抑える薬も使われます。



 貝谷先生のクリニック(和楽会)では、薬物療法と併せて心理療法も取り入れています。カウンセリングのほか、集団でスピーチをしてもらい、そのビデオを見ながら評価して、自信を持たせるように導いていきます。社会不安障害の人は過度な劣等感を抱いているので、自分を公平に判断できるように、見る目を養わせることが大切なのです。



 社会不安障害は、近年まで「治療できる病気」とは認識されていませんでした。そのため「生まれついての性格だからしょうがない」とあきらめて、悩み苦しみながら生活している人が多かったのです。SSRIという、その「性格」まで治せる画期的な薬の出現によって、不安のない明るい毎日を送れるようになりました。若い人だけでなく、中高年でも治療は可能です。「つらいけど、なんとか社会生活を営める」という現状から、「社会生活を楽しめる」「社会生活で成功する」というレベルにまでステップアップすることも可能なのです。つらい思いをしているあなた、思い切って受診してみませんか?

 受診先はどこ? 

精神神経科か心療内科です。精神神経科はいわゆる「心の病気」を専門に扱っています。心療内科は、体の症状の陰に心の問題が潜んでいると考えられている病気を対象にしています。似た名称の神経内科は、脳の神経細胞に損傷がみられる病気を中心に扱う診療科で、心の病気は対象外です。書籍やインターネットなどを利用して、社会不安障害に詳しい医師を探しましょう。

和楽会の受診の予約

心療内科・神経科 赤坂クリニック
https://akasakaclinic.mdja.jp/

なごやメンタルクリニック
http://fuanclinic.com/reservation/

横浜クリニック
http://fuanclinic.com/reservation/

SSRI=選択的セロトニン再取り込み阻害薬。社会不安障害に適用が認められているのは、マイレン酸フルボキサミン(製品名・デプロメール/ルボックス)。現在治験中なのは、塩酸パキロキセチン水和物(製品名・パキシル)。

ばらんす 2008, 5月号 P.4-7,