ストレス講座 〜その3〜

  自律訓練法 

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 ストレス解消の方法には、睡眠をとる、休息をする、酒を飲む、音楽を聴く、風呂に入ってくつろぐなどいろいろあります。今回は、代表的なリラックス法である自律訓練法を紹介します。自律訓練法というとなにか難しそうに思えますが、心身のリラックスをはかる練習法と考えて下さい。リラックスした状態とは、

まず手足の筋肉の弛緩です。
これは、手足が何となく重たくなったような感覚です。

つぎに、筋肉の弛緩により抹梢血管が拡張し、血流の増加に従って、手足の皮膚温が上がります。すると、ほんのりとした温かさを感じるようになります。そこで、手足が重たい、温かいという自己暗示の練習を続けることによって、心身のリラックスをはかることができます。

さっそく練習をはじめてみましょう!

姿勢‥心身のリラックスが目的ですから、なるべく体の力がぬけて楽な姿勢をとることが大切です。ベッドや布団の上に横になる、あるいは安楽椅子を使うのが最適ですが、普通の椅子でも十分可能です。椅子の姿勢の場合は、「どっこらしょ」という感じで座り、自然に肩のカがぬけ、首がすこし前に垂れるくらいでけっこうです。両足は、くっつけないで少し開く程度で、両手は軽くひざの上において下さい。そして、軽く目を閉じて下さい。最初は、静かな場所で練習した方が精神集中がしやすいと思います。 

呼吸‥つぎに深呼吸を行います。あまり胸いっぱい吸わないで、少し吸って、ゆっくり長く深く息を吐きます。3回くらい深呼吸をしますと、気持ちがだんだん落ち着いてきます。 

自己暗示の練習‥そこで、「気持ちが落ち着いている」という言葉を頭の中でゆっくりと2〜3回くリかえします。「すこし気持ちが落ち着いたかな、すこし楽になったかな」ということでもけっこうです。むりに気持ちを落ち着けようとするのは、かえって逆効果です。

  受動的注意集中‥むずかしい言葉ですが、なんとなく注意をむけるというくらいに考えて下さい。前段階までで、だいぶ気持ちのほうも落ち着いてくると思いますが、その「落ち着いた気持ち」を自分の右手に向けていきます。このときの感じとしては、「ああ、これが私の右手なんだな」といったものです。あるいは、頭の中に右手を思い浮かべるという方法でもよいと思います。これを、右手⇒左手⇒右足⇒左足という順につづけていきます。 

重感の練習‥つぎに、重たい感覚の練習をやってみましょう。右手に軽く注意をむけ、「右手が重たい」という自己暗示をゆっくり3回くらいくりかえします。「重たくしよう」というのではなく、なんとなく重たいようなだるいような感じをつかむことが大切です。これを、右手⇒左手⇒右足⇒左足という順にすすめていきます。

温感の練習‥今度は、温かい感覚の練習です。同じように、「右手が温かい」という練習をすすめていきます。手のひらが、なんとなくほかほかした感じがでてくれば成功です。これを、右手⇒左手⇒右足⇒左足という順にすすめていきます。

取り消しの動作‥以上のステップをふんで、重感、温感が感じとれるようになったら、「気持ちが落ち着いている」を2〜3回くリかえし、このリラックスした感じをしばらく味わって下さい。すこし眠くなることがありますが、就寝前の場合はそのまま眠ってもけっこうです。しかし、それ以外のときは、だるさが残ることがありますから、取り消しの動作を行います。まず、両手を強く握ってこぶしをつくり、それをばっと開きます。これを2〜3回くりかえし、つぎに両手を曲げたりのばしたりします。言ってみれば、一種のウォーミングアップです。ついで、2〜3回深呼吸をして目を開きます。

 これで、自律訓練法の標準練習(重感練習、温感練習)は終了です。他にもありますが、この重感・温感練習が習得できればリラックスには十分な効果があります。1回の所要時間は5分くらいが適当です。これらの感覚をつかむまでには、ある程度の練習が必要で、人によっては1〜2ヶ月かかることもありますが、毎日1〜3回の練習を根気よく続けることが大切です。

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ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL. 24 2001 SPRING