ストレス講座 〜その8〜

タイプA行動パターンと心筋梗塞

早稲田大学人間科学部教授
野村 忍

 最近の日本人の生活はすっかり欧米型になってしまいましたが、それとともに心臓病(特に、心筋梗塞)が増加するという副作用を招来しました。狭心症と心筋梗塞と合わせて虚血性心疾患と言いますが、その病態は、冠動脈の粥状硬化であり、血管の器質的狭窄、血栓形成あるいは攣縮によって、心筋への血流不全をきたすことによるものと考えられています。狭心症の症状は、労作時の胸部の絞扼感(しめつけられるような痛み)が特徴的でしばらくするとおさまります。心筋梗塞の胸痛は激しいもので、すぐに救急病院に行って治療を受けないと心不全や致死的な不整脈をおこし生死にかかわります。

 虚血性心疾患の危険因子としては、大規模な疫学的研究によって、高血圧症、高脂血症(特に高コレステロール血症)、喫煙、肥満、糖尿病、高尿酸血症などが明らかにされ、さらに近年になって情動ストレスとタイプA行動パターンが注目を集めてきています。これらはいずれも冠動脈硬化を促進する要因であり、その多くは食行動、喫煙・飲酒習慣、運動不足などの不適切な生活習慣によるものです。最近では「生活習慣病」という呼称が定着しつつありますが、虚血性心疾患はまさしく生活習慣(ライフスタイル)の歪みによる病気の代表的なものと言えます。

 タイプA行動パターンとは、性格的には競争的、攻撃的、野心的で、行動的には機敏、性急で常に多くの仕事に巻き込まれている猛烈社員型の人のことをいいます。こうした人は、これと反対ののんびり〜おっとり型のタイプBの人にくらべて心筋梗塞の発症率が約2倍高いと言われています。日本でも、狭心症・心筋梗塞患者にはやはりタイプA行動パターンが多いことが指摘され、日本人用のタイプA判定法の開発が試みられています。その結果、「敵意」「攻撃性」はあまり表出されず、性急さや仕事中毒といわれるような過剰適応が日本人的なタイプAと考えられています。タイプA行動パターンの人は、いつも時間に追われてせかせかと行動し、しゃべるのも、食べるのも、歩くのも早いという特徴があります。また、常に何かと競争していて、いくつもの仕事をかかえています。そうして、自らストレスの多い生活を好み、ストレスを多く受けているにもかかわらず、そのことをあまり自覚せずに無理を重ねた生活をする傾向があります。また、ストレスに対する反応の仕方も血圧が上がる、脈拍が増えるなど循環器系に負荷がかかりやすく、これが心筋梗塞になりやすい原因と考えられています。欧米では、こうした心筋梗塞のタイプA患者に行動修正する大規模な治療研究を行い、心筋梗塞の再発予防に効果があったことを報告しています。日本でもタイプAの行動修正カウンセリングを行った成績が報告されていますが、その内容は、

タイプAであることを気づかせる
行動修正への動機づけ・性急さの軽減
仕事の過重負荷を減らす
自律訓練法などのリラックス法

から構成されています。こうした行動修正がどのくらい心筋梗塞の予防に効果があるかは今後の研究成果をまたねばなりませんが、行動科学的な新たな取り組みとして注目を集めています。以前、ベンチャービジネスのオーナーの集まる会で講演したことがありますが、その時に参加者全員についてタイプAの判定をしたところ、なんと100中95人が典型的なタイプAでした。現代社会にあっては、社会的に成功するにはタイプA行動パターンが必要な条件とも言えますが、過労になって身をほろぼしては元も子もありません。自分の行動パターン、ライフスタイルをふりかえって、表のチェックリストをもとにチェックしてみましょう。6個以上「はい」に○がついた人は要注意です。こういう人は、日頃からストレスをため込まないように、ストレス解消にこころがけましょう。運動やスポーツをする、友人と話しをする、気分転換をはかるなどいろいろありますが、やけ酒、食べ過ぎ、タバコの吸いすぎはやめましょう。

 

タイプAチェックリスト

 

はい   いいえ

1. 毎日忙しい生活である。
2. 時間に追われている。
3. 何ごとにも競争してしまう。
4. ちょっとしたことでも怒りやすい。
5. 仕事や行動に自信がある。
6. 何ごとにも熱中しやすい。
7. 何ごとでもきちんと片付けないと気がすまない。
8. 緊張したりイライラしやすい。
9. 早口でしゃべる。
10. 並んで順番を待つことがイヤである。 

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VOL. 29 2002 SUMMER