ストレス講座 〜その10〜 アルコールに御用心 早稲田大学人間科学部教授 「酒は百薬の長」という言葉が古くからありますが、今回はアルコールについて考えてみましょう。お酒の飲み方にはいろいろあって、ストレスがたまった時に気晴らしに、眠れない時や緊張した時にリラックスするために、お祝いや楽しい時に仲間とのコミュニケーションに、そして習慣的に毎日飲んでやめられないとさまざまです。確かに、適度のアルコールは気分がよくなってリラックスしたり、会話がはずんだりといいこともありますが、飲み過ぎて二日酔いになったり、長年大酒を飲んで肝臓をこわしたりと弊害にも注意しておく必要があります。 アルコールの代謝は、そのほとんどが肝臓です。そして、肝臓で代謝されるスピードは一定ですから、「一気飲み」すると代謝が間に合わなくて悪酔いしたり急性アルコール中毒になってしまいます。図に示しますように、アルコールは飲むとすぐにアセトアルデヒドに変換され、ついでアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸、アセチルCoAへと変換され、最後はクエン酸回路に入ってエネルギーを産生しながら二酸化炭素と水に分解されます。ここで問題となるのがアセトアルデヒドで、顔面紅潮、頻脈、悪心、頭痛などの悪酔いの症状の原因となります。日本人では、このアセトアルデヒドを分解するALDHという酵素の活性が強い人(56%)と弱い人(38%)と全くない人(4%)がいます。強い人はいくらでも飲めますが、弱い人は少量しか飲めません。全くない人では、少量のお酒でもすぐに動悸がしたり悪酔いをして飲めません。ちなみに白色人種では、ほぼ100%の人が酵素活性が強いので、平気でワインでもウォッカでも飲めるというわけです。しかし、お酒に強いからといって毎日大量のお酒を飲んでいると肝臓に負担がかかって障害を起こします。個人差はありますが、一日3合以上の飲酒を10年間続けるとアルコール性肝炎などの肝障害を引き起こすと言われています。
アルコール依存症とは、アルコール摂取に関するコントロールを喪失し、身体的、精神的、社会的な障害を呈する状態です。依存には精神的な依存と身体的な依存があり、お酒なしではいられない、朝から飲みたくなる、酔った時の快感が忘れられないというのが精神的依存、飲まないと手がふるえたり気分がいらだつなどの障害がでてくるのが身体的依存です。アルコール依存になりやすい原因には、 ストレスによる不快な気分を手っ取り早く解消できるので、アルコールは重宝な手段ではあります。けれども、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉のように、いろいろな弊害もありますので飲み過ぎないように注意が必要です。アルコール性肝障害の人に、「お酒をやめなさい」と言ってもほとんど効果がありません。アルコールを飲まざるを得ないストレスフルな現実があるからです。よく映画に「酔いどれ医者」が登場しますが、医療者自身にとってもアルコールは身近な問題ですので、日頃からアルコール以外の方法でストレスを解消できるような方策を工夫することが大切です。
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