ストレス講座 〜その26〜

ストレスと
アロマテラピー

早稲田大学人間科学学術院教授

野村 忍

香りのはたらき

 匂い・香りを感じるのは嗅覚神経で、快〜不快などの情動と関連した動物以来の古い脳の働きのひとつです。動物では嗅覚は非常に敏感で、現在でも警察犬に匂いをかがせて犯罪捜査したり、空港で麻薬の密輸を阻止するために麻薬犬が活躍しています。人間では、他の高次脳機能が発達したために嗅覚はかなり鈍くなったのではないかと言われています。それでも美味しい匂いとか、魅惑的な香りは、快感情を刺激するなど精神状態にかなり影響します。香りは、古くから匂い袋や香水など日常生活と密接に関連するグッズの一つでもあります。また、日本では香道のようにひとつの文化として伝統をもっているものもあります。

アロマテラピー

 アロマテラピーは欧州から輸入されたものですが、日本でも美容法、健康法あるいは病気の治療法など幅広く使用されるようになって来ました。また、ストレス解消法や快眠グッズとして市販されている商品が数多くあります。

 方法としては、さまざまな植物の花、根、種子や樹脂から抽出された精油(エッセンシャルオイル)を、空中蒸散、吸入、マッサージなどで、鼻腔や皮膚から吸収させます。一般的には、ハーブ、ラベンダーやバラの香りがリラックス効果、レモン、ペパーミント、ジャスミンでは覚醒効果があるとされ広く使用されています。これらに含まれる成分としては、テルペン類を中心に数百種類の有機物質が同定されています。

香りの心理的生理的効果

 ラベンダーのリラックス効果は有名ですが、ローズは快感、レモンは爽快感などそれぞれ特徴があるようです。また、好みの問題や過去の記憶とも関連があり、個人差が大きいのも特徴です。良い思い出に結びついていると快い感情を抱いたり、逆にいやな思い出に関連していると不快に感じることもありますので、一概に「リラックスにはこの香りがよい」とは言えません。

 心理学的研究としては、香りをかいだときの感情や気分を測定する心理テストPOMSなどが用いられ、リラックス効果、抗不安効果あるいは覚醒効果などが報告されています。また、生理学的研究としては、中枢神経系の活動を反映する脳波や事象関連電位、自律神経系の活動を反映する心拍変動などの研究が報告されていますが、まだ決定版には至っていません。

香りによるストレス解消法

 ストレス解消法にもいろいろありますが、香りによる効果もなかなか捨てがたいものがあります。森林浴しながら樹々の匂いをかいだり、ヒノキのお風呂に入ったり、バラの香りをかいだりすると気分がすっきり、リラックスすることはよく経験されることです。市販されているアロマグッズの中にはいいかげんなものや効果の検証されていないものもありますが、自分にあった香りを楽しむのは大変リラックスするものです。読者のみなさんも一度試してはいかがでしょう。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.47 2007 WINTER