ストレス講座 〜その28〜 ストレスとアンチエイジング 早稲田大学人間科学学術院教授 野村 忍
はじめに 現代社会は、情報化に伴う産業構造の変化、バブルの崩壊後の深刻な不況、グローバリゼーションや超高齢化社会の到来など多くの難問に直面し、こうした社会環境の中で生活している現代人は、多くのストレスを経験しています。急性のストレスによって発症する 病態もあれば、慢性的なストレス状況の中で不適切な生活習慣となり二次的な種々の疾患へと移行するものもあります。したがって、 ストレスマネジメントは、治療医学的な観点と同様に予防医学的な 観点からも重要です。ストレスに如何に対処し、どのようにストレ ス解消していくかが健康な生活を送るための必要条件といえます。 ストレス反応のあらわれ方 ストレスの影響は、不快な危機的な心理的変化(不安、緊張、過 敏、抑うつ、焦燥、混乱などの情緒的反応)とそれに伴う生理反応 (疲労、倦怠感、頭痛、動悸、息苦しさ、めまい、ふるえ、発汗などの自律神経症状)とそれらの不快な状態を解消するための行動反応(せかせか行動する、タバコを吸ったり、アルコールを飲んで気分を紛らわす、八つ当たりなど)としてあらわれます。行動反応は、生活習慣やライフスタイルと密接に関連しており、このようなストレスによる不適切な生活習慣がさまざまな身体疾患を招来することは周知の事実です。こうした一連のストレス反応は、本来環境刺激に適応するための生体防御反応ですが、過剰なストレスや長期 間続く慢性的なストレスでストレス解消がうまくいかないと心身が 疲労困憊してさまざまな障害としてあらわれます。 ストレスマネジメントの方法論 ストレスマネジメントの方法論は、以下の5項目に集約されます。いずれの方法を活用するかは、ストレッサーの種類と程度、個人的資源の程度、社会的経済的資源、環境的要因などによって適宜選択されるべきでありましょう。 1)ストレッサーの軽減 現実的なストレス状況がはなはだしい場合は、ストレッサーの軽減あるいは回避を考慮します。休職〜自宅療養あるいは入院治療は、現実的なストレスからの回避の代表的なものです。これらの方法は、安静〜治療により心身の機能が回復する時間を稼ぐという意味では効果がありますが、再び職場復帰〜社会生活にもどっていくわけであり、その中での機能回復という目標を掲げた治療方針が重要です。 2)認知的評価の修正 ストレッサーの強さよりも、個人の受けとめ方や対処行動に問題がある場合は、ストレッサーの軽減をはかる方法では十分な効果をあげることは困難です。ストレッサーに対する過剰な認知的評価や不適切な対処行動を修正する認知行動療法が有効です。 3)ストレス反応のコントロール a)運動処方:ストレス緊急反応においては、高まる緊張は fight of flight するための準備状態をつくり、これは身体的活動を十分行うことによって(例えば、走って逃げる)解消されます。現代のストレス社会では、身体的活動を伴わない慢性ストレス状態が問題の核となっており、これを運動によって解消しようとすることは理にかなっています。運動処方とは、個人の年齢・体力にもとづいて最も適切な運動の種類や量を決定し処方するものです。 b)リラックス法:ストレスは心身の緊張状態を招くものであり、この解消にはリラックスが効果的です。リラックスする方法としては、ゆっくり風呂に入って休養をとる、好きな音楽を聴く、自然の中でくつろぐなどでもよいでしょう。系統だったものとしては、筋弛緩法、自律訓練法、ヨーガ、気功、禅、瞑想法などがあります。いずれの方法も、専門家の指導を必要としますが、自分で練習し体得するという点では共通しており、セルフコントロールの方法としては有力です。 c)バイオフィードバック法:バイオフィードバックとは、平常では知覚できない生体情報を何らかの機器を媒介として信号として フィードバックし、それをもとに自律神経系の制御を試みるという方法です。生体情報として、心拍、血圧、脳波、筋電図、皮膚温などを用いた機器が市販されています。 4)社会的支援の発展 同じストレッサーが加わっても、ソーシャル・サポートのある人とない人では、受けるストレスには明らかに差があります。ストレス病に陥り、医療機関を訪れる人の多くは、適切なソーシャル・サポートが得られず、孤立を深め、症状を介してのコミュニケーションをはかろうとして苦悶しています。医療スタッフの支持的援助はもちろんですが、職場や学校、地域や家庭の中でもこうした人たちのための支援ネットワークを構築することが重要です。 5)ストレス対処能力の開発 ストレスの認知の仕方、対処行動のとり方、反応の現われ方には 個人差が大きいのと同様に、ストレスの解消の仕方にも個人差が大 きいといえます。ある人にとってはストレス解消になっても、他の人にはかえって逆効果になってしまうこともあります。個人に適したストレス解消、ソーシャル・スキルを普段から身につけ、ストレス病になる前に適切な対処をとれるようにしたいものですね。 おわりに 21世紀は、心の時代、ストレスの時代と呼ばれています。高度に 発達をとげた文明の中で、「いかに人間らしく健康な生活を送るか」は大きな命題です。そのためには、多種多様のストレスと如何につきあい、いかに共生するかの方法論を習得することが重要です。ストレス対策は、個人のレベルでも職場、学校、地域、家庭あるいは医療の現場などさまざまなレベルでも必要であり、それを支える心身医学的行動科学的方策を確立することが今世紀の最大の課題といってもよいと考えます。超高齢化社会の到来を迎え、単に寿命がのびることだけではなく、「健やかに老いる」ことが今日ほど重要視されている時代はありません。ストレスの理解とその対策が、アンチエイジングの一助となることを期待しています。
ケ セラ セラ<こころの季刊誌> VOL.49 2007 SUMMER
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