ストレス講座 〜その30〜

交流分析による自己発見
(その2)

早稲田大学人間科学学術院教授

野村 忍

コミュニケーションのパターン

 コミュニケーションは日常生活で欠かせない重要なものです。家族や友人とあるいは仕事仲間とのなにげない言葉のやりとりが、人を元気づけ勇気を与え生きる力を呼び起こします。一方では、不快感や失望あるいは悲しみを振りまくこともあります。コミュニケーションがうまく行っているとき、こじれているとき、あるいは破壊的に終わってしまうとき、そこでどんな交流が起こっているかを考えてみましょう。交流分析では、人と人とのコミュニケーションの仕方には、ある一定の交流パターンがあることを教えています。相補的交流、交叉的交流そして裏面的交流の3つが基本型です。自分の日常生活でのうまく行かないコミュニケーションは、どのような交流だったかをふりかえって整理して考えてみると良いでしょう。

つの基本的交流パターンー

1)相補的交流
 図1は、職場の上司と新入社員との会話の例である。新入社員の「私は、まだなにもわかりませんので、よろしくご指導をお願いします」というのは、新入社員のC(子ども)から上司のP(親)へのメッセージであり、上司の「よっしゃ、まかせとけ、何とか一人前になれるように教えてあげよう」というのは、上司のPから新入社員のCへのメッセージです。この交流は相補的であり、「それじゃー、今日は一緒に飲みに行くか」というようにより親密な交流へと発展していきます。この交流パターンは、PとCあるいはA(成人)とAの間での交流として現れることが多く、通常の日常会話でもっともよく見られるものです。

2)交叉的交流
 図2は、思春期の親と子どもの会話の例です。親は子どもが何歳になっても子どもに対して、常に「○○ちゃん、〜しなさいよ」というPからCへのメッセージを投げ続けます。それに対して、自我の成長した子どもは「〜これこれだから〜これこれ」というAからAへのメッセージを返します。するとこの交流はかみ合わなくなり、すれちがったりケンカみたいになって終わります。これを交叉的交流と言います。思春期に見られる第2反抗期ではこの交流パターンが多く見られます。

3)裏面的交流
 第3の交流の仕方として、表面のメッセージとは別のメッセージがある場合があり、これを裏面的交流と言います。前者は社交レベルのメッセージでAからAへ、後者は心理レベルのものでPからCへ、あるいはCからPへのメッセージとなります。図3では、子どもの「今日はコンパに行くから夕食はいらないわ」に対して母親の「どうぞ、好きにしなさい」という反応は表面的にはAとAの交流ですが、「遅くなったらいけませんよ!」というPからCへの裏のメッセージが含まれている場合があります。日本人では、この裏面的交流が非常に多くみられ、会話に奥行きがあるとも言えますが、あまり裏のメッセージが多すぎると人間関係が複雑になり混乱の原因となることもあります。

こじれる人間関係

 うまく行かないコミュニケーションは、交叉的交流と裏面的交流のパターンです。交叉的交流では、メッセージの向かった相手の自我状態とは別の自我状態から反応が起こった場合に、会話が頓挫してしまいます。裏面的交流では、表面上はうまく行っているようでも、何か割り切れない、何となく不愉快な気分を残してしまいます。よく儀礼抜きにして「ざっくばらんに話しましょう」というのは、こうした裏の駆け引きはなしにして本音で率直に交流した方が効率的ということでしょう。日常生活の中でうまく行かないコミュニケーションがあった場合には、@自分のメッセージが何を期待していたのか、それに対してどのような反応がかえってきたのか?A一応期待するようなメッセージがかえってきたが、何かすっきりしないものを感じるか?という2点から考えてみましょう。こじれる人間関係を予防するには、日ごろからなるべく率直に話し感情の行き違いが起こらないように努めることが大切です。(次号に続く)

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.51 2008 WINTER