家族関係あれこれ

 “家族関係”にはいります前に一つだけお尋ねしたいことがあります。それは“家族”という言葉に、最初に思い浮かぶ言葉は何かということです。

 私は例年、家族心理学開講時の学生に対する無記名アンケート調査で、学生達に同じ質問をして、彼女達が“家族”についてどんなイメージを抱いているのか教えてもらうことにしております。その結果出てくるイメージは各人各様で、そこには多かれ少なかれ家族生活への思いのようなものが反映されていると考えられます。

 次に示しましたのはここ3年程の女子学生達の家族に対するイメージのベスト7です。

<平成6年>
@絆・つながりA暖かいB団欒C安らぎD愛情E親F兄弟

<平成7年>
@暖かいA団欒B愛情C親D兄弟E絆・つながりF安らぎ

<平成8年>
@暖かいA団欒B愛情C親D食卓E家F絆・つながり

 ご覧のように殆どプラスのイメージで占められ、女子学生達の幸せな家族生活を推測させる結果と考えられます。しかし平成8年度には、珍しく“家族の苦しみは自分の苦しみ”“束縛”といったマイナスのイメージもいくつか浮かび上がってまいりました。

 このことは、家族は私たちにとって幸せや心の安らぎをもたらす、世の中で最も大切なものであると同時に、大変なストレス源にもなり得るということを示唆していると思われるのです。

 元京大霊長類研究所長で、現日本モンキーセンターパークの河合雅雄園長さんがどこかで、「霊長類の仲間である人間と猿の決定的な違いは“家族という集団を持っているかいないか”である。そのようなヒトの最大特徴といえる家族が最近おかしくなってきている。」と語っておられました。

 日頃心理臨床場面で様々な家族問題に直面する事の多い私も、かかる家族の危機的状況を深刻に受け止めている者の一人であります。次回から、このような時代の家族同士の良い関わり方について考えてまいりたいと思います。

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
Que Sera, Sera Vol.5 1996 SUMMER

岩館憲幸(いわだて のりゆき)

 1929年秋田生まれ。早稲田大学文学部哲学科卒業。心理学専攻。自衛隊中央病院精神科、航空自衛隊岐阜病院などを経て、現在は東海女子短期大学児童教育学科心理学コース教授。なごやメンタルクリニック心理カウンセリング担当。