黙っていては分かり合えない〜家族アンケートから〜

 この3月、朝日新聞が全国有権者3、000人を対象に、直接面接で行った家族に関する意識調査結果について、興味ある特集記事を掲載していました。

 例年私は家族心理学の開講時に、家族アンケート(無記名)を行うことにしております。その狙いは、学生たちの家族状況と家族観について語らせることで、家族心理学への関心や学習意欲を高めたかったこと、そしてアンケートの記入態度から家族心理学
に対する学生たちの期待度や取り組み姿勢のようなものが或る程度推し量れるのでは、と考えたことにあります。

 今年度前期の家族心理学アンケートでは、上記新聞の意識調査項目も加え、私どもの女子学生と新聞の調査対象者との比較もしてみることにしました。

 その結果の詳細については別の機会に譲ることとして、今回は家族の相互理解に関する項目だけを取り上げながら話を進めてまいりたいと思います。

 現代はストレス時代といわれております。ストレスをもたらす原因は人それぞれで異なり、一概にはいえないことではありますが、いつでも上位にあげられるのが人間関係によるもの、なかでも家族関係は、職場関係と並んで最もストレス源になりやすいと指摘されております。

 ”家族”から、まず初めにどんな言葉やイメージを思い浮かべるかの質問に、今年は数年前ランクを下げていた”絆”が”団欒”に縦ぐ2位に上位復活しました。

 ところが、その一方で学生たちは、『今の日本では、家族の絆は壊れやすいものだと思いますか』の質問に対して、47%が”壊れやすい”と答えているのです。「朝日新聞」(以下「朝日」)の結果では、59%とさらに高い数字を示しておりました。逆に”壊れにくいと思う”としたのは11%で、「朝日」の35%と比べ大
きな開きがありました。これは、半数近い(42%)学生たちがいずれとも決めかねず”何ともいえない”としてしまった(「朝日」は僅か9%)ためと考えられます。今回の我々のアンケートでは、いずれの質問に対しても、「朝日」と比べ”何ともいえない”と答える学生が圧倒的に多く、学生たちの質問項目に対する関心の低さや、授業そのものへの取り組み姿勢に問題は無いのか、懸念されるところでした。

 しかしそれはさておき、家族の絆は何から生まれるのか、絆を強めるためにはどうすべきか、今の日本では家族の絆は壊れやすいという認識が半数近い学生に認められるとしたならば、その学生たちに、なおのことその点について問いただしてみたい気持ちになります。『家族の絆は主に何から生まれると思いますか』に大半の学生は、”一緒に暮らすこと”だとし(55%)、次いで約5分の1足らずではあります(12%)が、”家族一人一人の努力”を挙げておりました。ちなみに「朝日」では、順位に変わりはありませんでしたが”家族の努力”は39%で、”一緒に暮らす”こと(40%)と、ほとんど差はありませんでした。

 ”家族一人一人の努力”とは具体的にどんなことをさすのか、ここで学生たちにもっと突っ込みをしたいところでした。そうすることで、今後彼女たちが家族問題により一層真剣に取り組む一つのきっかけになればと考えたからです。今回はそれができませんでしたが、その代わり、別の質問項目『家族はお互いに、然っていても分かり合えると思いますか。黙っていては分かり合えないと思いますか。』で、家族が互いに分かり合うためのコミュニケーション努力の必要性を、どの程度まで
感じているかうかがい知ることができました。

 結果は、”分かり合えない”が63%、”分かり合える”が僅か8%、”何ともいえない”が29%でした。有権者全体を対象とした「朝日」の調査でも半数強が、”黙っていては分かり合えない”と答えております。

 家族の絆を壊してしまう様々な家族問題が、家族間のコミュニケーション不全に端を発している場合が多いというのが、これまで家族問題の臨床に携わってきた私の実感であります。

 今回のアンケートにより、多くの学生たちも、たとえそれが漠然としたものであるにせよ、「このままでは日本の家族は駄目になる、家族の絆を強めるためにはもっと話し合わなければならない、黙っていただけでは分かり合えない、家族の絆を壊さないために家族一人一人が、話し合いの努力を惜しむべきではない」と感じているらしいこともよく分かりました。彼女たちが目指し、やがてつくっていくであろう”家族像”はま
んざら捨てたものではないのでは、と思えてまいりました。(参考:平成11年3月29日付 朝日新聞)

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
Que Sera, Sera Vol.18 1999 AUTUMN
岩館憲幸