- 疾患と治療法についての説明の要点(患者教育、家族に対しても行う)
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- 不安の病気である。
- パニック発作、予期不安、広場恐怖などの症状がある。(症状の説明)
- 不安・恐怖に関係する脳の機能障害であって、本人の性格や気のせいではない。(原因についての説明)
- 発作で死ぬことはない。(保証)
- 薬で効果的に治療できる。精神療法も有効。(治療法の説明)
- 周囲の理解と協力が重要。
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- 治療の基本方針(上記1−eの内容。患者・家族にも説明する)
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- 診断基準に照らして、診断の確認と器質性疾患の除外。(診断基準はDSM-IVまたはICD-10を使用)
- 薬物療法によって、パニック発作を消失させる。
- その他の不安も薬物で出来るだけ軽減させる。
- 薬物に加えて、一般的な支持療法(保証、激励など)を必ず併用する。不安への対処法、リラクセーション法などの指導も加えることが望ましい。
- 不安の十分な改善が見られたら(突発性パニック発作が消失し、その他の不安も軽減少したら)、行動練習(暴露療法)を促す。
- 治療の目標は全ての症状の寛解と機能の回復である。
- 妊娠など、薬物療法が出来ない、または望まない患者は専門医へ紹介する。その他の紹介基準は5.参照。
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- 薬物療法
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- 抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用で治療を開始する。
- 抗うつ薬としては、SSRIを第一選択薬とする。
- Paroxetineなら10mg(1x夕)から開始して、1週間に10mgずつ増量し、副作用が耐えられる限度内で効果が最大となるよう至適用量を決める。通常は20〜30mgで十分である。効果発現まで少なくとも2〜4週間、十分な効果発現には8〜12週間を要する。
- ベンゾジアゼピンは高力価のもの(alprazolam、clonazepam、lorazepam、ethyl loflazepateなど)を用いる。Alprazolam、lorazepamなら1日3〜4回、clonazepam、ethyl loflazepateなら1日1〜2回服用とし、必要なら常用量の上限まで用いて症状の改善をはかる。
- ベンゾジアゼピンは抗うつ薬の効果が見られたら徐々に減量していく。抗うつ薬の効果発現が早ければ2〜4週間、遅ければ8〜12週間たってから減量を開始し、1週間に10%程度のペースで漸減していく。ただし定期的服用の中止後も、頓用(原則週4回以下)は許容される。
- 抗うつ薬は十分な効果が見られたら、その量を6ヶ月〜1年間維持し、症状の再燃がなければ、さらに6ヶ月〜1年間かけて漸減中止する。症状の再燃が見られたら、それ以前の量まで一旦戻し、減量をやり直す。
- 第1選択の抗うつ薬が無効の場合、第2選択以降の抗うつ薬としては、他のSSRI(fluvoxamine)、三環系抗うつ薬(imipramine、clomipramineなど)が推奨される。投与方法はparoxetineの場合に準ずる。一般にうつ病に対する場合よりも少量で有効な場合が多く、少量から開始して効果が最大で副作用が最小となる用量を決めて維持する。1つの抗うつ薬の有効性の判定にはおよそ4週間必要である。
- 副作用等のため抗うつ薬が使用できない場合は、ベンゾジアゼピンのみで治療を行う。十分な量を十分な期間用い(上記fに準じる)、減量はより慎重に行う。離脱症状防止のため、長期使用には血中濃度半減期の長いベンゾジアゼピン(clonazepam、ethyl loflazepate)が推奨される。なお、抗うつ薬のかわりにsulpirideを用いて有効な場合もあるので、ベンゾジアゼピンとの併用で試みてもよい。50〜150mgで即効性がある。
- うつ病・うつ状態を伴う場合は抗うつ薬を用いる。ただし双極性障害の既往がある場合は、抗うつ薬による躁転を防止するため、気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸など)を用い、ベンゾジアゼピンを併用する。薬物依存や乱用歴のある場合は、ベンゾジアゼピンを投与しない。これらの場合は専門医への紹介も検討する。
- 薬物療法開始前に、薬物の副作用と中止後発現症状(注)について十分説明し、服薬指示の遵守と急激な服薬中止をしないよう指導する。(注:SSRIでも高用量で急に中止すると、数日〜1週間以内にふらつき、吐き気、頭痛、発汗、インフルエンザ様症状などが出現することがある。通常はそのまま数日すれば消失するが、程度が強い場合は一旦薬を元に戻して、少量ずつ減量する)
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- 精神療法
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- 患者教育は精神療法の最も重要な一部である(上記1,2参照。随時繰り返す)。
- 精神療法の基本は、患者の不安や恐怖を共感的に受容したうえで、不安への対処法を指導し、克服するよう促すことである(2−d)。以下のc〜dは、実行困難なら専門医に依頼してもよい。
- 不安への対処法としては、「不安をやり過ごし、通り過ぎるのを待つ」「種々の方法で、不安から注意をそらす」「深呼吸、筋弛緩などのリラクセーション法を修得し応用する」などがある。
- 不安(恐怖)は、避けていてはいつまでたっても克服できないので、症状が軽快したら、敢えて不安場面に入って行って、そこで耐える練習が必要である(暴露療法)。不安場面を列挙し、不安の程度を数値化(1〜10)して、数字の高いものから順に並べた一覧表を作る(不安階層表)。表の不安の程度の軽い場面から練習を始め、成功したらその上へと、少しずつ程度を上げていくよう促す。成功することが自信回復につながるので、無理せず、休まず、練習を続け、成功体験を積み重ねるよう励ましながら指導する。
- 外来診療の際には、練習を実行した記録を持参してもらい、不安階層表上の数値の改善等、経過が目視出来るように工夫する(モニタリング)。成功したらほめ、失敗しても挑戦した勇気をほめ、練習への意欲を高める。患者の希望する目標を達成することが治療のgoalである。
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- 専門医への紹介
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- 症状の改善が不十分と判断される場合(例:6週までに、パニック発作の頻度、予期不安、広場恐怖のどれかが25%以下の改善しか示さなかった場合)。
- 副作用が強く、そのため十分な量の薬の処方が出来ない場合。副作用のため既に2回以上他剤へ変更している場合。
- 妊娠などで薬物療法が出来ない、または薬物療法よりも精神療法を希望する場合。
- 希死念慮または自殺企図が見られた場合。
- しばしば救急外来を受診する場合。
- 患者が専門医での治療を望む場合。
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厚生労働省こころの健康科学研究事業
パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定に関する研究班(主任研究者:久保木富房)
治療指針検討委員会:大野 裕、貝谷 久宣、越野 好文、竹内 龍雄※、樋口 輝彦
※委員長。名前は五十音順になっています。
補助金名:平成16年度厚生労働科学研究費補助金
研究事業名:こころの健康科学研究事業
研究課題名:パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定 |
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