「愛は事なり」といえり(無住)

鎌倉時代の臨済宗の僧、無住が「沙石集」に記した言葉です。無住の言う「愛」とは恋愛や夫婦愛もありますが、親子愛、師弟愛、友愛などさまざまな形の人間愛として広く捉えた愛です。「事」とはお釈迦様が「六方礼経(ろっぽうらいきょう〉」という経本のなかで、友人に対して守るべき態度として「同時の心」を説かれました。同時の心とは、自分の立場を去って、相手と同じ境遇になって協調できる心のことです。医者は医学的知識を持ち、専門家としての義務を果たしながら患者の目線に立って治療することであり、反対に患者は、医者の立場も少しは考えながら診療を受けるということになります。無住は「愛とは相手に合わせる心である」と言ったのですね。

(中野東禅著 凡人のための禅語入門 幻冬社 より)

Que Sera Sera VOL.51 2008 WINTER