突然激しい不安、どうき…パニック障害 医療法人 和楽会 理事長 産経新聞 2001/03/15 突然、激しい不安に襲われ、息苦しくなったり、どうきが激しくなるなどの発作が起こることで、「また発作が起こるのではないか」との不安から日常生活がうまく送れなくなってしまう「パニック障害」。これまで「自律神経失調症」や「心臓神経症」と診断されたり、気のせいや性格の問題といわれ、適切な治療が行われないケースも多かった。しかし、長年パニック障害の治療に取り組んできた貝谷久宣なごやメンタルクリニック院長は「脳の機能障害によるもので、身体の病気と同じく薬で治癒できる」と指摘する。昨年末には日本で初めてパニック障害の治療薬が認められるなど、治療環境も整ってきた。 (平沢裕子) 100人に1〜3人の患者 パニック障害は、20年前に米国精神医学会で「強迫性障害」や「対人恐怖」などと同じ「不安障害」のひとつとして位置づけられた。その後、1992年に世界保健機構(WHO)の疾病分類に登録されたことで、世界的に知られるようになった。 人□百100人に1〜3人の割合で患者がいるといわれ、発症年齢は、男性が25〜30歳、女性が30〜35歳がピークだが、小学生や60歳になってから発症する場合もあるという。 貝谷院長は「若ければ若いほど重症になりやすい。特に、中高生で起こると、外出できないことから家に閉じこもりがちになり、だれも自分のことを分かってくれないとの人間不信から、大人になって大変な人格になることもある。医師や患者本人はもちろん、学校の先生にもこの病気について知ってもらいたい」と話す。 パニック障害には、どうきや息切れ、呼吸困難などの「パニック発作(表)」と、また発作か起きるのではないかと不安に思う「予期不安」があるのが特徴だ。さらに患者の8割に、パニック発作が起きた場所や発作が起きたときに逃げられない所を避けるようになる「広場恐怖」の症状がみられる。発作のときの「このまま死んでしまうかもしれない」「気か狂うのでは」という強い不安は、患者にとって耐え難いものだか、それ以上に広場恐怖は深刻で、中には25年間外出できなかった主婦もいたという。 そこまでひどくなくても、電車やバスに乗れない、スーパーのレジに並べないなど日常生活に支障をきたすため、結果的に仕事をやめたり、家庭崩壊につながるケースも少なくない。 ストレスで発症も 最初にパニック発作が起きたとき、どうきや呼吸困難の症状から内科の病気と考え、病院で検査してもらって異常がみつからず、原因がわかるまで医療機関をはしごする人も多い。「パニック障害と診断される前に別の医療機関を訪れた回数は平均2.5回。内科医の中にはパニック障害についてよく知らない人もおり、そのため無駄な検査がされている場合も多い」と貝谷院長。 遺伝や性格的なものも発症に影響するとされ、かかりやすい性格として、仕事熱心で熱中しやすい、従順、素直、慎重、臆病、怖がり、自己中心的などがあげられる。ただ、病気によって性格が作られる面もあり、「どんな性格の人でもかかる可能性がある」という医師もいる。 最近の研究でパニック障害は、脳内の神経伝達物質バランスが崩れることで発症することが分かっている。 たとえば、発作のひとつである激しいどうきは、心臓そのものに問題があって起こるのでなく、心臓をコントロールしている自律神経の交感神経と副交感神経のバランスか乱れて起こる。また、ストレスの影響も無視できず、転勤や昇進、引っ越しなどの日常生活のちょっとした変化が要因になる場合もある。 治療は、患者自身に「パニック障害は治療すれば必ず治る病気」ということを理解させた上で、薬によってパニック発作を抑えることから始める。 薬の効果があらわれるのに3、4カ月かかるが、発作が起こらないことが実感できれば、それまで発作を恐れて回避していたもの、たとえば電車に乗ったりスーパーでの買い物にチャレンジさせ、普通の生活が送れるという自信をつけさせていく。 貝谷院長は「パニック障害は医学的にはっきりとした病気。適切な治療が行われれば、必ず治る。ただ、重症になるほど治療には時間がかかるので、気になる症状がある場合は早めに精神科など専門医に相談してほしい」とアドバイスしている。
昨年、治療薬が認可 昨年11月、日本で初めてパニック障害の適応症を取得した「パキシル」は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬で、脳内セロトニンの働きを高めるという。すでに世界80カ国以上でパニック障害と診断された患者の6割に中等度以上の改善がみられた。ただ、パニック障害の患者は、プラセボ(擬薬)でもある程度の効果があることが同試験で確認されており(グラフ参照)、治療する上で「気のもちよう」が与える影響も無視できない。 |