暮しと健康 2003.9 P93
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社会不安障害 :::
〜回答者〜
医療法人和楽会
心療内科・神経科 赤坂クリニック理事長
貝谷 久宣
Q:緊張による赤面と発汗で会話ができない
26歳、男性。私の悩みは、人と話すと手にすごく汗がでることと、すぐに顔が赤くなることです。病気なのか自分の性格のせいなのか、わかりません。手に汗がでることで、握手やほかの人の手に触れることができず、握手を求められても拒否するばかりです。また、赤面のために恥ずかしくて職場の人たちと会話をすることかできず、自分の伝えたいことも伝えられません。これらのことは子どもの頃からの悩みで、大人になればいつか解消されるだろうと思っていましたが、いっこうに解消しません。本を読んで自律神経失調症ではないのかと思い、心療内科のある病院を探しています。これは正しい判断なのか、わかりませんが、本気で悩んでいます。どうかよきアドバイスをお願いします。(埼玉県
M・T)
A:薬物療法と心理療法で大きな改善が期待できる
心療内科を受診するという考えは間違いではありません。というのは、相談者の状態は医学的対応により大きな改善が期待されるからです。つまり社会不安障害である可能性が高いのです。
この障害は、以前には対人恐怖といわれていた状態とほぼ同じです。社会不安障害の患者さんは、自分の状態や行為が悪いとか劣っていると他人に評価されたり侮辱されることに強い不安を感じます。
ですから、人前にでたり人前で何か振る舞うことに対して強い嫌悪感をもち、そのような状況を回避します。表に筆者のクリニックを訪れた社会不安障害の患者さんのおもな訴えを示します。
社会不安障害は、薬物療法と心理療法で多くの場合驚くほどよくなります。治療後数か月もすると、「今までの自分はなんだったのだろう。これで自分の人生は変わる」と喜びを語ってくれる患者さんが数多くいます。これは自分の性格だというように思い込むことをやめ、一種の病気として考え、早く助けを求めることです。
薬物療法に使用するくすりは大きく三種類に分かれます。SSRI(選択的セロトニン再とり込み阻害薬)は抗うつ薬ですが、近年、英国と米国で社会不安障害のくすりとして認められ、日本でも近い将来認可される予定です。
このくすりは、服用後すぐには効果を発揮しませんが、数週間すると、それまで強い恐怖心をもっていた状況に遭遇しても物怖じしなくなる作用をもち、一年ほど服用を続けると明るい性格に変えてくれます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、服薬後数十分で緊張感をとってくれます。通常は高血圧症に使用されるべータ遮断薬は緊張時の心悸亢進(動悸がひどくなる)や手の震えを抑えます。これら三種類の
くすりを上手に組み合わせることにより、症状はどんどん軽減していきます。
薬物治療と同じくらい大切なのは心理療法です。心理学的治療のなかでは、認知行動療法が社会不安障害に明確な効果をもちます。これはマイナス思考の患者さんにプラス思考をもつ機会を与え、恐怖場面に対処する方法を習得させるものです。
認知行動療法は専門家を必要としますし、この治療は多少なりとも患者さんの苦痛をともなうものです。薬物療法だけでもかなりの効果がありますから、まず薬物療法から始めるとよいでしょう。
終わりに、社会不安障害の患者さんのためのウェブサイトを紹介します。
http://www.shypeople.gr.jp/
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