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パニック障害

『頻度と特徴』

発作への予期不安が特徴的

貝谷久宣

心療内科・神経科 赤坂クリニック
不安・抑うつ臨床研究会

パニック障害の頻度は、人口の1〜3%に達する。

パニック障害の診断の決め手は、不安、抑うつ、さらに乗り物・外出恐怖といった精神症状の有無である。

パニック障害は経過の長い病気であり、慢性期には軽いうつ状態や不定愁訴など種々な症状を呈する。

T パニック障害とは

 パニック障害 (panic disorder) という病名は、米国精神医学協会の操作的診断システムである「精神障害の分類と診断の手引き第3版(DSM−V、1980)」1)からみられるようになった。それまで不安神経症とされていた病態が、DSM−Vではパニック障害と全般性不安障害とに大きく区分された。最新のDSM−W2)では、「パニック発作」と「広場恐怖」をまず定義し、それからパニック障害の診断基準を示している。パニック発作の定義は、10の身体症状と3つの精神症状の中から四つ以上が突然出現し、短時間のうちにその激しさが最高度に達する。パニック発作は、その突然で激しい症状による恐怖感もさることながら、体の内側からわき上がってくる不安(内因性不安)を伴うことが特徴である。それは「居ても立ってもおられない」「そわそわする」「自分の居場所がない」………などと表現される。

U パニック障害に特徴的な症状3)

 パニック障害では、パニック発作は1回だけのことは稀で、発作は次々に頻発してくることが多い(図1)。

 パニック発作症状のうち出現頻度の高いのは、心悸亢進、呼吸困難、めまいである。(図2)。

 パニック発作の症状数は、発症時には九つあったと訴える患者が最も多かったが、初診時には六つと訴える患者が多かった(図3)

 パニック発作は、原義的には不意にまったく予期しない状況で起こるが、発作を繰り返しているうちに、ある決まった状況だけに条件反射的に生じる傾向がでてくる。このような予期できる状況は、乗り物に乗っている時とか会議中といった、物理的または心理的に束縛された場所が多い。また、約4割の患者では、夜間睡眠中に発作が起きる。この睡眠時パニック発作は入眠後2〜5時間後に多く(図4)、終夜睡眠脳波研究では睡眠第3〜4期に生じ、夢を見ているレム期には記録されていない。

 パニック障害は不安の病である。パニック障害の中心症状は、上述の内因性不安とともに、発作がまたやってくるのではないかという恐れ、すなわち、予期不安である。その予期不安のために何らかの行動の変化がみられ、ついには広場恐怖症に発展する。

 広場恐怖症は、パニック発作が起きたときにすぐ逃げ出せないか、助けを求められない状況を不快に感じ、忌み嫌い避ける状態である。パニック障害患者の70%以上は程度の差こそあれ、一時的または持続的に広場恐怖を伴う(図5)。

 また、パニック発作に前後して半数以上の症例でうつ状態がみられる。パニック障害に伴ううつ症状は、内因性うつ病にみられるいわゆる抑うつ気分を主兆とするものもあるが、むしろ自発性減退を主とするいわゆる意気消沈うつ病が主である。

 パニック障害は経過の長い病気である(図6)。初期から中期にかけては短い時間に激しい症状がでる、いわゆる発作的に症状が出現するが、時間の経過とともに、穏やかで持続的な症状がみられるようになる。筆者はこれを「残遺症状」と呼んでいる。頭重感、首や肩の凝り、眼の疲れ、軽いめまい感、軽い息苦しさ、発汗、全身倦怠感などがこれにあたる。このような症状が週に何回か、1日数時間出現することが多い。このような症状だけを訴える患者は「自律神経失調症」と診断されていることが多いが、病歴をよく聞いてみるとパニック発作の既往が存在することが少なくない。

V 患者の特性

 生涯のうちにパニック障害に罹患する患者は、100人に1〜3人といわれている。欧米では、男女比は約2倍の割合で女性に多いが、本邦では男女比はほぼ同じである。平均発症年齢は約30歳で、男性28歳、女性32歳であった(図7)。初診年齢はそれよりも2〜3年後にピ−クがみられる。

W パニック障害が見逃される理由

 最近本邦で、2例のパニック障害症例が呈示され、その診断を記入するよう求めた臨床家へのアンケ−ト調査が行われた4)。その結果、「パニック障害/不安パニック発作」としたのは精神科医(180名)では45〜51%であった。一方、内科医(175名)は「心臓神経症」49%、「不安神経症」37%、「自律神経失調症」29%、「パニック障害/パニック発作」としたのはわずか5.7%であった(図8)。

 パニック障害患者は、発病すると、専門の心療内科や神経科に訪れることはまずない。それ故、他科で高価な費用を使って無駄な検査を受け、貴重な時間を浪費していることが多い。これは患者にとっても社会にとっても大きな損失である。表1に種々の状況におけるパニック障害患者の割合を示した5)

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 表1 米国におけるパニック障害患者の割合
一般人口            1〜3%
プライマリケア患者       7%
プライマリケアの日常的受診患者 22%
冠動脈造影検査正常の胸痛患者  33〜43%
褐色細胞腫が疑われた高血圧患者 35%
過敏性大腸症候群患者      29%
所見のないめまい患者      13%
偏頭痛患者(一般人口中)    5〜15%
慢性疲労症候群患者       11〜30%

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X パニック障害の治療

 パニック障害の治療の大前提は、患者にパニック障害についての理解を深めさせることである。パニック障害は不安の病である患者は極度に発作症状を恐れ、その発作の原因となる重篤な病気を推定しあれこれ思い悩む。また、中枢神経系の機能異常による自律神経系の過敏体質によると考えられるため、有効な治療法があることを理解させるだけで、治療の半分は終了したといっても過言ではない。

 実際の治療で最も重要なことは、パニック発作を完全に消失させることである。パニック発作が完全に消失しない限り、予期不安は消失しないし、さらにそれに続く広場恐怖やうつ状態を防ぎ、治療することはできない。

貝谷久宣:シンポジウム「パニック障害」 頻度と特徴
日経メディカル1997号10号131〜133頁(1997)

参考文献
1)American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders(Third edition).AMA, Washington, D.C., 1980.
2)American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders(Forth edition).AMA, Washington, D.C., 1994.
3)貝谷久宣:不安・恐怖症、パニック障害の克服.講談社、東京、1996.
4)佐藤啓二:我が国のパニック障害の病態と治療に関する研究.Upjohn symposium Vo.9, Anxiety Disorders Mood Disorders,1994, 東京 p35-57
5)Katon W: Panic Disorder: Relationship to high medical utilization, unexplained Physical symptoms, and medical costs. J Clin Psychiatry 1996;57(suppl 10):11-18.