第4回日本うつ病学会
Medical
Tribune Vol.40、No.32、pp.28
看護職の抑うつ傾向は他職種に比べて高い
看護職はストレス反応や抑うつ感が強いことが報告され、看護師の健康問題にとどまらず、医療事故につながることが危惧されている。北海道医療大学大学院心理科学研究科の内山貴美子氏らは、女性看護師を対象に行った、抑うつに影響する要因の検討および他職種との比較から、「看護職では他職種に比べて抑うつ傾向にある。抑うつにつながる否定的な自動思考(抑うつ)を同定し、適応的かつ肯定的なものへの修正が必要」と、札幌市で開かれた第4回日本うつ病学会(会長=北海道医療大学心理科学部・坂野雄二教授)で述べた。
勤務形態や年齢などが関連
対象は、病院および施設に勤務する女性看護師215人(平均年齢38.7歳)、女性一般労働者(同36.9歳)で、属性、不合理な信念測定尺度(JIBT-20)、自動思考尺度(ATQ-R)、NIOSH職業性ストレス調査票、抑うつ尺度(SDS)の郵送法による質問紙調査から、抑うつに影響する認知的変数とストレッサーなどの背景要因について他職種との比較から検討した。
その結果、抑うつ得点は看護職では平均41.58点、他職種では40.51点と差はなく、両群ともに軽度抑うつ領域であった。看護職においては、勤務年数が短期間の群では中期間の群に比べて抑うつ得点が有意に高く、勤務時間が長時間の群では短時間の群に比べ得点が有意に高かった。
看護職で他職種に比べ抑うつ度得点が高い傾向にあったのは、20歳代が他の年齢層と比較した場合、配偶者なしが同ありと比較した場合、3交代勤務が2交代勤務と比較した場合であった。勤務年数1〜5年目を要因とした分散分析では看護職は他職種に比べて抑うつ得点が高かった。1週間の平均勤務時間は看護職では44.37時間と、他職種の39.81時間に比べて有意に長かった。
不合理な信念や自動思考に関する得点は看護職と他職種との間で差はなかったが、多変量解析では看護職では他職種に比べ役割葛藤、対人葛藤、量的労働負荷に対するストレッサーが有意に高いことが認められた。ストレッサー、不合理な信念、自動思考が抑うつに与える影響について重回帰分析を行った結果、ストレッサーの「役割あいまいさ」や不合理な信念の「依存」、「無力感」が否定的自動思考の「将来に対する否定的評価」につながり、抑うつに影響を与えていることが考えられた。
寛解期でも一部の記憶機能が低下
うつ病患者における記憶機能障害は、急性期に認められて治療後に改善されることが報告されているが、臨床上うつ病から明らかな認知症に移行する症例も経験することが多い。順天堂大学精神医学教室の前嶋仁氏らは同教室のうつ病研究プロジェクト[Juntendo
University Mood disorder Project(JUMP)]で、うつ病の寛解期における記憶機能について調査したところ、「うつ病患者では、寛解期において論理記憶と言語性対連合が健康人に比べて有意に低下しており、60歳以上では視覚性再生の有意な低下が認められた」と報告した。
年齢でうつ病による障害パターンが異なるか
対象は、同大学で精神疾患の分類と診断の手引き第4版(DSM-W)から大うつ病障害と診断されて入院治療により寛解したうつ病寛解群79例と健康人群88人で、それぞれ60歳以上の高齢者(うつ病患者24例、健常者25人)と60歳未満の若年者(それぞれ55例、63人)に分け、Wecsler
memory Scale-Rの下位項目から論理記憶、言語性対連合、視覚性再生を用いて、それぞれの即時再生と30分後の遅延再生を評価した。
その結果、論理記憶の平均スコアは即時記憶がうつ病寛解群の高齢者では12.63点、若年者では18.64点と、健常者の順に15.88点、23.17点に比べ、いずれの年齢層も有意に低下しており、遅延再生もうつ病寛解群(順に6.73点、13.22点)は健康人群(11.42点、18.4点)に比べて有意に低下していた(図)言語性対連合も、即時記憶(うつ病寛解群の高齢者11.0点、若年者15.15点に対し健康人群14.46点、17.81点)、遅延再生(うつ病寛解群の5.18点、6.3点に対し健常者群6.04点、6.98点)と、うつ病患者群で有意に低下していた。
視覚性再生については、高齢者では即時記憶はうつ病寛解群では28.13点と、健康人群の32.13点に比べて有意に低く、遅延再生もうつ病寛解群では20.74点と、健康人群の28.54点に比べて有意に低いことが認められた。なお、若年者ではうつ病寛解群35.38点、健康人群36.06点、遅延再生も順に32.49点、34.10点と年齢によるスコア差はなかった。
以上から、前嶋氏は「寛解したうつ病患者では一部の記憶機能障害が認められ、高齢者と若年者のうつ病では傷害されるパターンが異なることが考えられた」とし、「今後は高齢者と若年者におけるうつ病の病態の違いが、認知症への移行も含めた記憶障害の予後に反映しているかどうかなどを検討していきたい」と述べた。
〜非定型うつ病・不安障害〜 夕方以降に1人になると発生しやすい
非定型うつ病や不安障害によるうつ病では、夕方から深夜に発作的な不安やうつ状態が見られる。医療法人和楽会なごやメンタルクリニック(愛知県)の貝谷久宣理事長らは、同クリニックの不安・抑うつ発作を呈した患者を対象に行ったアンケートから、「夕方以降に1人になった場所で発生しており、視覚的なフラッシュバックやアクティングアウト的な行動も見られた」と述べた。
アクティングアウト的症状に注意
対象は、同クリニックの不安・抑うつ発作を呈した患者44例(男性4例、女性40例、平均年齢25.36歳)で、不安・抑うつ発作の定義は、「強い不安または抑うつを感じる期間が他とはっきり区別でき、不安・焦燥感、悲哀感、自己嫌悪感、絶望感、孤独感、無力感、自己憐憫感、自責感、羨望、空虚感のうち2つ以上が突然発現し、多くは30分以内で頂点に達する」とした。
アンケートの結果、不安・抑うつ発作の頻度は週平均3.82回、月平均15.ll回(発現平均時間は19.73時間)で、夕方以降から夜間にかけて自室1人で無行動時の発現が80%以上であった。発現時間は90%が一定し、誘引ありは約60%。病前にも経験あり60%以上、フラッシュバックの経験は約90%で、フラッシュバックの視覚的表象は約70%と幼児期や思春期の不安症状の関与が考えられた。
身体症状ではパニック発作様の自律神経症状や落涙、精神症状では抑うつ感、不安・焦燥感、空虚感、孤独感、対処行動では気晴らし食い、大声で叫ぶ、不貞寝、リストカットなどアクティングアウト的な行動といった非定型うつ病の特徴を示していた。
精神疾患簡易構造化面接M.I.N.I.を行った33例のうち、不安障害は32例、非定型うつ病は25例であった。非定型うつ病でなかったのはパニック障害が見られた22例中4例、強迫性障害では6例中1例、社会不安障害では8例中2例のほか、パニック障害などの併発障害なしが1例であった。また、不安・抑うつ発作があった患者のうち97%が不安障害であり、75.6%が非定型うつ病であったことから、不安・抑うつ発作がこれらの疾患の中核症状と考えられた。ハミルトン不安評価尺度は平均16.00、同うつ病評価尺度は13.50といずれも症状は軽度で、標準的尺度で評価されにくいと考えられた。
貝谷理事長は「不安・抑うつ発作によるアクティングアウト的な症状は、日常診療でよく遭遇するが見逃されされやすい」と指摘した。
〜小児の抑うつ症状〜症状の強さでその後の抑うつ傾向や自殺念慮を予測可能か
国内では、小学生の10%前後に臨床レベルの抑うつ傾向があることや、自殺念慮が小児の2割弱に見られること、さらに2006年における小学生の自殺は前年の2倍との報告がある。日本学術振興会特別研究員で宮崎大学教育文化学部の佐藤寛氏らは、6か月間にわたる縦断調査による小児の抑うつ症状と自殺念慮に関する検討から、「ある時点における抑うつ症状の強さで3か月後、6か月後の抑うつ傾向や自殺念慮の予測が可能である」と述べた。
友人関係などが要因
対象は、茨城県内の公立小学校に在籍する小学4〜6年生669人(調査時の平均年齢10.28歳)で、4年生は男子103人、女子117人、5年生はそれぞれ122人、111人、6年生は115人、101人。自殺念慮を含む子ども用うつ自己評価尺度(DSRS)、最近1年間における抑うつ症状、不安障害やストレッサー経験などに関する質問票調査を初回、3か月時、6か月時に行い、抑うつ傾向は最近1週間における抑うつ症状についてはDSR16点以上、自殺念慮はDSRの「生きていても仕方がないと思う」に関して肯定的回答とした。
その結果、小学4〜6年生のいずれの学年も抑うつ症状や自殺念慮の予測因子と、性と年齢、さまざまな不安障害の症状との関連はなかった。
しかし、初回調査で抑うつ傾向を示した小児では3か月後の抑うつ傾向を呈する相対リスクが、そうでない小児に比べて5.58倍、6か月後では6.67倍と有意に高く、自殺念慮の相対リスクは順に4.29倍、3.83倍と有意に高いことが認められ、ある時点の抑うつ症状の強さが3か月後や6か月後の抑うつ傾向や自殺念慮の予測因子となることが示唆された。
初回調査において自殺念慮を示していた小児では、3か月後の自殺念慮の相対リスクが、そうでない小児に比べて5.50倍、6か月後では4.08倍と有意に高いことがわかり、自殺念慮からその後の自殺念慮を予測することが可能と考えられた。自殺念慮は、その後の抑うつ症状を予測する相対リスクとしては高くなかった。
また、抑うつ症状を予測するストレス経験は友人関係によるもので、自殺念慮に対しては友人関係、学業、教師など多様なストレス経験が予測力を持つ可能性が示唆されたが、これらのストレス経験の影響力は過去3か月以内に経験した場合のみ関与することがわかった。
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