掃除の五徳 医療法人 和楽会 理事長 貝谷 久宣 私たちのクリニックには不安障害やプチうつ病に悩む患者さんが多く来院されます。これらの病気の治療でもっとも基本的なことは、医師が病気を治すのではなく、病気は患者さん自身が自分で治すものだということです。医師はあくまでもそのお手伝いをするだけです。患者さんの治療意欲が非常に大切な病気なのです。治療法は薬物療法がメインになることが多いですが、それ以外にもいろいろあります。私は生活療法も薬物療法と同じくらいまたはそれ以上に重要だと思っています。私は、最近、患者さんに生活療法の一つとして掃除をすることを勧めています。掃除を毎日することには深い意義があります。第1の徳は、掃除をすることにより心が清らかになります。掃除は汚れを祓うという精神性を有しています。日本古来の神道の神前でお参りする言葉は“祓い給え、清め給え…”で始まります。仏教の修行では作務(掃除を主とする肉体労働)は坐禅と同じくらい重要な勤めです。第2の徳は、物理的に部屋が美しくなり気分が清々しくなります。第3の徳は、体を動かすことができます。近年、うつ病や不安障害の運動療法がトピックスになっています。運動することにより、抗ストレスホルモンがたくさん分泌され、海馬の神経細胞が新生することがわかってきました。第4に、掃除は“はたらく”―傍が楽になる―ことです。家人の患者さんに対する態度が変わります。“ゴロゴロばかりして…”から“あら、病気でも頑張ってくれるわ、捨てたものではないわね”と。第5の徳は、“マインドフルネス―今に生きる”です。不安やうつの患者さんは過去のことを後悔したり、未来を取り越し苦労します。掃除をしているときは、今に生きることができます。皆さん、今日から毎日お掃除をしましょう! ケ セラ セラ<こころの季刊誌> |