創刊60号おめでとうございます
東京大学名誉教授 久保木
富房
ケ・セラセラの創刊60号おめでとうございます。ケ・セラセラは季刊誌なので15年経過したということになる。15年継続するということは大変すばらしいことである。
私と貝谷久宣先生は1990年にWHO主催のパニック障害世界会議(ジュネーブ)に一緒に出席した。レマン湖の辺のホテルで3日間会議に出席し、その後シャモニーに行って、モンブランに登り、帰りはロンドンに行き大英博物館を見学した。楽しく充実した1週間であった。モンブランに登った時は一過性の高山病を経験した。症状としては軽い頭痛と二日酔いのような嫌な気分であった。高山病は一般的には4000m以上の高山で発生するといわれているが、急速に高地に移動すると2000〜3000mでも発生することがある。高山病のメカニズムは、大気の気圧が低下し、肺の肺胞での酸素分圧の低下をまねき、低酸素症となる。簡単に表現すると酸素不足状態ということである。ひどいときは、めまい、不眠、不安、注意力低下、嗜眠なども出現し、重症になると肺に水がたまったり、心不全を起こして死ぬこともある。
ジュネーブから帰ってから、私と貝谷先生と仲間、計6名で不安・抑うつ臨床研究会というグループ活動を始めた。文字通り不安とうつに興味を持って研究・臨床に勤め、情報を発信していこうという活動である。不安の代表的な病気がパニック障害である。パニック障害は、ある日突然理由もなく、特別のストレス状況でもないときに、激しい身体症状と強い不安や恐怖におそわれるパニック発作から始まる。高山病のところで、酸素(O2)不足のために不安という症状が出ることを紹介した。実は、二酸化炭素(CO2)の血中濃度に変化があるとパニック障害の患者さんはパニック発作を起こしやすいことが証明されている。我が国でこの分野の研究を先駆けたのは東大心療内科の研究グループであった。
ここで不安・抑うつ臨床研究会もNPO法人としての活動を始めているので、その活動内容を紹介しておく。まず、早稲田大学の国際会議場において都民公開講座を16年継続して開催している。その年に公開講座の講演をまとめて日本評論社より上梓している。専門家を対象としてパニック障害セミナー(12回)、八ヶ岳シンポジウム(15回)、赤坂精神医学懇話会(13回)なども毎年継続中である。
その他にも認知行動療法の専門家養成のために東京認知行動療法アカデミーを開校し、すでに17回開催して、延べ4000名以上の専門家が受講している。
ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.60 2010 SPRING
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