クリニックの今
医療法人
和楽会 理事長 貝谷 久宣
未曾有の東日本大震災により亡くなられた方とそのご遺族に心よりお悔やみを申し上げます。また、被災された方々には深くお見舞い申し上げます。
4月から、赤坂クリニックの松薗医師がホリスティック外来を始めます。科学的エビデンスのある治療法を種々とりいれて全人間的な治療を行います。「くすりいらずのメンタルケア」という本を主婦の友社から筆者の監修で間もなく出版されます。また、昨年春より蓼科のセミナーハウスにて不安・うつを持つ若い女性患者を対象に2泊3日のリトリートを行っています。短い期間ですが、このリトリートに出席されて治療のきっかけをつかんだ患者さんは数少なくありません。心理療法においては、認知行動療法が専門の大学教授3名が中心となり、数多くの常勤・非常勤の臨床心理士が日夜カウンセリングに携わっています。わたしの本来の専門は臨床精神薬理学ですが、今年度からは薬物以外による治療をさらに充実したいと思っています。なごやメンタルクリニックと横浜クリニックには東京大学大学院から河村代志也先生が赴任されます。なごやメンタルクリニックは従来通りの診療とともに強迫性障害の専門医療機関としても貢献しています。
今年度から3つのクリニックで全く新しい抗うつ薬の治験も始まります。医療法人和楽会は今後ともますますの患者サービスに励んでいきます。
新任医師・新治療のご案内
乗物恐怖への取り組み
なごやメンタルクリニック・横浜クリニック・鎌倉山クリニック
河村 代志也
研修医になって初めて受け持った患者さんは、若いパニック障害の患者さんでした。周りの入院患者さんと違い、幻覚や妄想があるわけでもなく、ふつうに見える方でした。もともと勝ち気な質でしたが、パニック発作のため外出が恐ろしくなって家から出られなくなり、そのうちトイレにも一人で入れなくなって、とうとう入院することになりました。
入院生活で安心感を取り戻すと、私と少しずつ外出する練習を始めました。一緒に電車に乗れるようになると、次は私と別の車両に乗るようになりました。しかし、一区間を一人で乗車する練習の段階になって、患者さんは急に練習できなくなってしまいました。
少しずつ努力を積み重ねてきたのに、どうして急に進まなくなってしまったのか、私にはどうにも理解できませんでした。いやそれ以前に、患者さんご自身が、これまでと違って急に身がすくんで、ホームの白線から足を踏み出せなくなった事態を理解できず、とても戸惑っていました。その瞬間、私はハッとしました。ごくふつうに見えたパニック障害の患者さんが、自分にも周りにも理解できない大きな不安に苦しんでいることを理解しました。患者さんは、自分で理解できない症状に苦しめられ、周りに理解されないことに苦しみ、自分が不甲斐ないと思って自分自身を苦しめてきたのです。
待ち受けている恐怖もつらいですが、わからない「何か」はもっと恐ろしいものです。ですから予期不安の症状は、よくわからない不安を、少しでも想定できる恐怖に軽減しようと、患者さんが一人で工夫してきたことなのかもしれません。
現在、クリニックでは、患者さんが実際に一人で電車に乗れるように、熟練カウンセラー(臨床心理士)が同行して、段階的な集団カウンセリングを行っています。かつて研修医だった私が成せなかった、乗物恐怖の改善をもたらしています。このような症状にお困りの方は、どうぞクリニックにご相談下さい。 |
赤坂クリニックホリスティックルーム開設にあたって
松薗 理英子
今の私を知る人には大抵驚かれるのですが、かつては社会不安障害といってもおかしくない状態でした。人見知りで内気、人前でアガる、思いを伝えられない。SSRIを飲んでみたこともあります。今ではときにずうずうしくもある私がです。今振り返ると、不思議なことに次々と必要な知識や情報や経験にめぐりあうことができました。私に必要だったのは本来あるがままの自分でいる勇気だったのです。今ではかつての状態がうそのように、気楽な気持ちで居心地よく生きられています。まさに自分自身もホリスティックな健康を手に入れたのでしょう。
ホリスティックという言葉は「全的」「関連」「つながり」などと約され、人間を身体・精神・霊的なものを含めたトータルな存在としてとらえます。医学的には「病気がない状態」という健康感にとどまらず、すべての面でバランスがとれ調和し、環境になじみ幸せを感じられる状態をめざします。高めるべきは本来備わっている自然治癒力です。従来の薬物療法や心理療法の他にも自然療法や統合医療を含めたオーダーメイドの治療を提供したいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 |
ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.64 2011 SPRING
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