パニック発作は不安中枢のこむら返り?

 たいていの方は一度はこむら返りになったことがあるかと思います。足のふくらはぎなどがつってしまう状態ですね。あれは,つらいですね。マッサージをしたりしながら筋肉のけいれんがおさまるのをじっと待つしかありません。ただ、こむら返りは安静にしておれば,じきにおさまります。時に,癖のようになってしまって,しばしば繰り返す人もいるかもしれませんが,基本的には,筋肉の緊張をほぐしていきます。

 しっかりとした医学的根拠があってのことではないのですが,私は,パニック発作というのは,不安中枢のこむら返りのようなものだろうと考えています。筋肉のこむら返りでもかなりつらいのですから,不安中枢のこむら返りとなったら,これは大変なつらさでしょう。また,筋肉のこむら返りは,何が起こったのかがわかりますから,つらいことはつらいが極度の不安に陥ることはまれで,じっと回復するのを待つことが出来るわけですけれども,パニック発作になるとそうはいきません。いったい何事が起こったのか?心臓発作か?はたまた脳卒中か?このまま死んでしまうのか?もうどうにかなってしまいそうだ!と,極度の不安状態になってしまうわけです。

 しかし,心臓病や脳の器質的な病気がないことがわかれば,あとは,心配はいらないのです。パニック発作はごくまれに起こる不安中枢のこむら返りのようなものなのだと理解して,安静にしていれば,じきおさまるのだということを認識してください。ほっておいてもどうにかなってしまうわけではなく,基本的には大丈夫なのです。ただ,本格的な発作は大変つらいものですから,大きな発作が起こりそうなときはお薬を飲んで静めてあげれば良いのです。

 ところで,こむら返りは年に何回も起こるものではありません。パニック発作にしてもしかり。たぶん,本格的なパニック発作というのは,本来,そうたびたび起こるものではないと思います。ところが,パニック発作は一度経験してしまうと,その恐ろしさのイメージから,また発作が起こるのではないかという予期不安が強くなり,その不安感が,パニック発作を誘発しやすくしてしまうという悪循環が生まれるわけです。

 なかには、こむら返りが癖のようになって何回も繰り返す人がいるかと思いますが、同様にパニック発作が癖のようになってしまっている方がおられます。それがパニック障害です。しっかりと薬を飲むことによって、その癖を改善していきましょう。

 激しい運動の後に,こむら返りは起こりやすいわけですが,これは,疲労物質である乳酸が筋肉にたまることが影響しているのかもしれません。興味深いことにこの乳酸という物質は,パニック発作の誘発因子でもあるのです。このあたりにもパニック発作とこむらがえりとの共通点が少しあるかもしれません。

 過度の疲労や睡眠不足,過剰なストレスなどに気をつけ,規則的な生活を心掛けることがパニック発作の予防につながるのだということをしっかりと認識し,パニック障害を克服していきましょう。体調の悪い時には十分な休養をとり,また,暴飲暴食を慎み、早寝早起き、適度な運動といった健康的な生活を心がけていってください。

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治


ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.37 2004 SUMMER