『私メッセージ』…その後

 前々回、『私メッセージ』について、ご紹介しましたが( http://www.fuanclinic.com/ ドクターヨシダの一ロコラムを参照)、「あれ、実際にやってみるの、難しいです」というご意見を、何人かの方からお聞きしました。また、「私はこうして欲しいんだけど!!」と、『私メッセージ』で話したが、やっぱりケンカになってしまったと、話される人もいました。しかしこれは、ちょっと考えてみると『私メッセージ』になっていないですね。「私はこうして欲しいんだけど!!」と、私を主語にしていながら、実際のメッセージは「どうしてあなたはこうしてくれないのだ!!」と、相手への不満を中心にした『あなたメッセージ』になっています。『私メッセージ』にする場合は、相手を責めたり批判したりするのではなく、ある出来事が私にとってどうなのかということ、つまり私はそのことをどう感じるのかということを、具体的に落ち着いて相手に伝えるようにすることが大切です。そしてもう一つ大事なポイントは、『私メッセージ』でこちらの意見を言う前には、まず、相手のぺースに合わせてじっくりと相手の話を聞く(傾聴)ということが必要だということです。なかなかうまくできないかもしれませんが、機会があるごとにどうぞ実践してみてください。

 とはいうものの、『私メッセージ』で話せば、すぐさま相手がこちらの言うことをちゃんと聞いてくれるようになって全てがうまくいくかというと、そういうわけでもありません。やはり、機嫌を悪くしたり、反対意見や文句を返されたりということは、きっとあるでしょう。ただ、『私メッセージ』でのコミュニケーションを繰り返していれば、「お前はどうして…なんだ!」「あなたはどうして…なの!」とお互いに『あなたメッセージ』で相手のことを非難しあっていつもケンカになってしまうようなところがあったとしても、少しずつ改善してくると思います。関係がなかなか改善しなくても、しばらくの間は、種まきをしているのだと考え、いつかきっと芽が出ると信じて、根気よく『私メッセージ』を繰り返してみてください。その際、前提となる傾聴も忘れないでくださいね。

 ところで、こちらは『私メッセージ』を繰り返していても、相手が『あなたメッセージ』でガンガンやってきて、一方的にこちらが責めたてられてしまうような場合はどうしたらいいのでしょうか?この場合は、「彼(あるいは彼女)は、…と感じている(考えている)ようだ」「彼(あるいは彼女)は、私に…してほしいと思っているようだ」と、相手の「あなたメッセージ』をあたかも『私メッセージ』で話しているかのように翻訳をしてしまいましょう。

 たとえば相手から、「お前は、どうしてもうちょっとちゃんとしないのだ!」と怒られてしまったとしたら、それでガーンと落ち込んでしまったり、私のことを全然理解してくれていない!と腹を立ててしまったりするのではなく、「彼には、私がちゃんとしていないように見えるようだ」「彼は、私にもう少しちゃんとしてほしいと思っているようだ」という具合に、頭の中で翻訳して聞きます。責められているように受け取らないで、相手はこうしてほしいという自分の気持ちをこちらに伝えているのだと翻訳します。そして、相手のその考えに対して、自分はどう思うのかを少し間をおいて冷静に考えるようにしてみましょう。

 相手は一般論を述べているのではなく、あくまで、自分の意見を言っているのだととらえ、それに対して、私はどう考えどう感じたのかを整理して、「私メッセージ』で自分が感じたこと、伝えたいと思ったことを相手に返していきましよう。

 ただ、中には、こちらの意見を一切聞かず、こちらをおとしめることだけを目的にいつも『あなたメッセージ』で責めたててきて、こちらが罪悪感を持ってしまうように仕向けてくる人もいるようです。モラルハラスメントといわれる執拗な嫌がらせをしてくるような人たちですね。そういう人たちというのは、自分が常に優位に立っていないと不安になってしまうので、くみしやすい相手をおとしめて操作・支配しようとするタイプの人のようです。たまたま相手がそういうタイプの人だった場合には、状況を冷静に見極め、時には、強く自己主張することが必要になることもあるかもしれません。

〔参考文献〕
* 大橋禅太郎、倉園佳三『すごいやり方』扶桑社
* マリー=フランス・イルゴイエンヌ(高野優 訳)『モラルハラスメント』紀伊国屋書店

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治



ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.46 2006 AUTUMN