大殺界?―ものは考えよう

 何年か前に、ある女性の患者さんから、「先生、私、今、大殺界なんです」と、不安をうち明けられたことがあります。たかが占いと言ってしまえば、それまでですが、こういったことで、ひそかに悩んでおられる患者さんは、他にもおられるのではないでしょうか。個人的には、占いなどの神秘的なものにも興味はあるのですが、しかし、まあ、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」です。

 どうしても占いが気になってしまう方は、ものは考えようで、いいように考えてみましょう。たとえば、今、大殺界の真っただ中で、(たまたま)病気になったり、つらい状況にあったりということだとします。しかし、「私は大殺界だからこんなひどいことになるんだ」と悲観して考える必要はなく、「時間が経てば大殺界の時期は終わるのだから、このつらい状況からも必ず抜けられるんだ」と思えばいいのです。実際、大概の事は時間がたてば、なんとかなっていくものだと思います。

 また、大殺界の真っただ中で、たまたまいろいろ大変なことが起こっても、なんとかこれを乗り越えることができたとしたら、「大殺界だったけれども何とか困難を乗り越えることができてよかった」と、プラスに考えることができます。

 逆に、「大殺界でもないのに、嫌なことが次々に起こってくる」という人もいるかもしれません。その時はその時で「いろいろ苦労はしたけれど、大殺界ではなかったから、そう大変なことにもならず、無事に乗り越えることができた、良かった、良かった」と、やはり少々能天気に前向きにとらえましょう。

 大殺界というのは、十二年の内の三年間、連続でやってくるようですね。十二分の三、すなわち人生の四分の一が大殺界というわけです。また、周りを見回したとき、単純に考えて、四人に一人は、大殺界ということになります。しかし、そんなに多くの人に、悲惨なことが起こっているわけではありませんよね(世界では、いろいろ大変なことも確かに起こってはいますが…)。まあ、大殺界、恐るるに足らずということでしょうか。

 この十二年の内の三年というのは、十二ヶ月の内の三ヶ月間が冬であるという季節の移り変わりの、まさにアナロジー(類似性)ですね。 以前、こんなことをどこかで聞いたことがあります。桜の花というのは、一定期間のしっかりとした冬の寒さがないと、開花の時期が遅れてしまうそうです。その話を聞いた時に、冬は確かに寒く厳しい季節ですが、その冬があるからこそ、桜は、春になって一斉に綺麗に開花するのだなあと、感心しました。人生における大殺界というものも、こういうものと考えることができるのではないでしょうか。いろいろ厄介なことが持ち上がって苦しい状況になったとしても、そういう時というのは、決して悪いだけの時期ではなく、まさに成長のために力を蓄える時期なのではないかと、思います。

 確かにいろいろと悪いことが続けて起こるということも、人生にはままあるもので、そういう時は流れがあまり良くない時期と捉えて、あまりジタバタせず物事を静観し、やれることとやれないことを見極め、流れが良くなってくるのをじっと待つという心持ちでやりすごしていくことが、大事なのではないでしょうか?

 また、個人的には、流れが良い時も、実はあまり調子に乗らず、やはり、じっくり状況を見極めながらやっていくのが良いだろうと考えています。調子が良いからといって、やりすぎてしまうと、つい失敗してしまいがちですよね。まあ、これは、私のパーソナリティからくる個人的な考え方かもしれませんが…。

 それでは、皆さん、大殺界の方も、そうでない方も、2010年が良き一年となりますように。

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.59 2010 WINTER