なかなかやる気が起きない時(その二)
前々回、同じ題でコラムを書きました。今回は、その二です。
先日、ちょっとした小さな研究会で講演をしてきました。一ヶ月半以上前から頼まれていたのですが、なかなか準備をする気が起きず、発表スライドが出来上がったのは、前日ギリギリになってしまいました。ちょっとした時間を見つけては、どんな話をしたものかとちょくちょく考えてはいたのですが、そろそろ準備をしなければ…しなければ…と頭を悩まし、ああ、もうあと二週間しかない、一週間しかないと、だんだん追い詰められ、あげくに直前の土日は、別の研究会が入ってしまい名古屋に出張と、さらに時間がなくなって…、といった感じで、苦労しました。何とか前日の深夜にはスライドを完成させて、担当者にメールで送りました。
このケセラセラの原稿も、いつもギリギリになってしまい、締め切りを過ぎてしまうことが多いのですが(今回は自分自身を戒めて何とか締め切り前に仕上げました)、こういったやらなければいけないことに迫られている時は、いつもある本の次の言葉を思い出します。
「やろうと思っているのにやっていないこと、やめようと思っているのにやめていないことの数々は、日常の些末なことであっても(むしろそうであればあるほど)、不定期に意識に上がってきて、注意とエネルギーを奪います。…(中略)…未完了を定期的に完了させることで、目標へ向けてエネルギーを向けることができるようになります。」(伊藤守『コーチングマネジメント』ディスカヴァー社)
そうなんです。やらなければいけないことがたまってくるとエネルギーを奪うんです。余計に気分が重くなってくるんです。とりあえず、目の前のことから少しずつでいいから片づけていく、そうすることが心の健康には一番なんです。ただ、わかってはいても、なかなかこれが実行できないんですね。
この「〜をやらなければ」という気持ち(意志)を、実際の行動に移すということに関して、ここ数年、側坐核という部位が注目されているようです。側坐核というのは脳の中心の左右にある非常に小さな部分で、やる気、モチベーションが起こってくるためには、この側坐核が活動することが必要なのだそうです。ところが厄介なことに、この側坐核というところは十分な刺激がこないとなかなか活動を起こしてくれないようです。それじゃあ側坐核を活動させるためにはどうするか?まずは行動を起こして側坐核を刺激するのだそうです。前々回の一ロコラムにも書きました一とりあえず行動を始めて見るとだんだん気持ちがのってくる」という作業興奮という現象ですね。「やる気」にスイッチを入れるために、まずは行動を起こしてみるということです。
しかし、以上のことは、脳科学者から言うと仮説以下の推測に過ぎないそうです。意欲というものは、もっといろいろの脳機能やこころの総体として起こってくるものであって、側坐核が意欲の中枢であるというのは、正しい表現ではないようです。側坐核は快感情(満足感)の形成に絡んだもので、意志を実際の行動に変換する際に重要な働きをしているようですが、その正確な機能の解明はまだこれからのようです。
とはいうものの、やる気がなかなか起きなくて困るという方は、未完了を少しずつ完了させていくということ、やる気が出なくてもまずは行動してみるということを、日ごろから心がけるようにしてみましょう。(私もそう心がけています。)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長
吉田 栄治
ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.65 2011 SUMMER |