人というものは、みずからを忘れて他を
知るを実道とは申し侍るなり。(慈円)

 鎌倉時代の天台宗の僧で歌人としても有名な慈円(じえん)の言葉です。「自分の物差しではなく、相手の状況を見ることこそ人間の生き方である」と言っています。たとえば電話をかけるとき、相手の都合を考えて時刻を気にするのは当たり前のことです。また、久しぶりに会う知人には、体の調子や近況をたずねます。これも常識です。「正しい日々の生き方」とはそんな常識的な相手への気遣いの集積なのです。「自分のことはひとまず忘れなさい。相手がどういう状況にあるのか、それを知って行動するのが人間の生き方なのだ」とお釈迦さまが教えているのです。

(中野東禅著 人生の問題がすっと解決する名僧の一言 三笠書房 より)

Que Sera Sera VOL.56 2009 SPRING