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[ 座 談 会 ] 軽症うつ病

軽症うつ病の診断と治療

 


薬物療法に関して


期待されるSSRIの治療

久保木 昨年(1999)からSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という新しい薬が日本で使えるようになりました。それからスルピリドという比較的使いやすい薬があって,今までの研究だと半分くらいのケースである程度期待できるといわれています。内科の医師に対して,薬物療法に関してこのようなことが大事だというお話があれば伺いたいと思います。

貝谷 最近経験した70歳過ぎの老婦人の例ですが,不眠,体がだるい,何もしたくないなどと訴えてきました。非常によく勉強されており,「私はうつでしょう」というのです。しかし,いつもにこにこされており,どうみても抑うつ気分はありません。ただ家庭環境を聞くと,息子夫婦と同じ敷地内に暮らしているのですが,別宅のようになっており,ほとんど交流がないという寂しい,孤独な老人です。初めは,本当のうつ病ではないし,老人だからできるだけ軽い薬でと思い,睡眠薬も漢方薬,脳の代謝亢進薬とごく軽いベンゾジアゼピンを少し出したのですが,なかなかよくなりません。それで半年以上経過した時点で,「新しくSSRIが出たから一度飲んでみますか」ときくと,本人ももう調べており,「ぜひそれを飲みたい」という。25mg1錠を寝る前に飲んでもらったのですが,よく効いて,ますます明るい顔になりました。「もう1つ飲んだらもっと元気になるかもしれないから,もう1錠飲ませてはしい」というので,今は2錠飲んでもらっていますが,非常に調子がいいですね。

 SSRIは,非常にいい薬ですが,胃腸障害が20%近く出るので,一般の医師に安心して使ってもらうにはまだ困難なこともあります。ただ,非常によく効くし,重篤な副作用もありません。今後違った種類のSSRIも出てきますし,さらに副作用が少ないSNRI(セロトニンーノルアドレナリン再取込み阻害薬)も出るようなので,うつはこれからますます治療しやすくなると思います。

貝谷久宣 氏
Hisanobu Kaiya

 

新しいSNRIへのアドバイス

久保木 SSRIに続いて,今後SNRIも出てきそうですが,使い勝手やアドバイスについて,田島先生,いかがでしょうか。

田島 SSRIに関しては,日本ではまだ1種類しか使えません。この薬もけっして悪い薬ではないのですが,初期用量が多いと副作用としての消化器症状の頻度や強さが他のSSRIよりも大きいという報告があるので工夫が必要です。

 イギリスに5つのSSRIが入った後の市販後調査で,開業医が使ったときの印象を調べた結果としては,60数%の満足度,有用度が認められました。ですから,これから出てくるSSRI,あるいは現在のものも少し使い慣れてくると,専門医でない医師もきっちり使えるようになるのではないでしょうか。

 SSRIの最もいい点は,従来からいわれているように有効投与量が処方しやすいということです。効かない場合には増やすのですが,三環系抗うつ薬のように低用量で無効のまま長期に引っ張るという可能性は非常に少なく,初期用量から治療用量に入るという可能性があります。私はうつ病の薬物療法で最も大事なのは治療用量をきちっと使うということだと思っているのですが,一般内科の医師が三環系の治療用量をきちっと使うというのは困難であろう思います。

 現実に最近のイギリスのデータをみても,50%以上のGPは相変わらず三環系を1日30mgという処方をしています。精神科に興味がなく勉強しないから,SSRIがこれだけあるのに使わない。これから新しいSSRIが次々と出てくると,そのような意味では期待できます。

 それからSSRIは特に不安に関しての効果が最も期待されているわけですが,逆にそこのところが精神運動抑制や意欲に関しての手応えに関していまいちという評価をする医師もいます。その意味では,セロトニンとノルアドレナリンの両方の取込みを阻害し,しかも抗コリン作用があまりないSNRIは,ある程度治療量が使えるので,専門家でなくても使えると思います。ただ,ノルアドレナリンに対して選択的で,このような受容体の阻害作用がない薬は,逆に刺激によって排尿障害などが出やすいということもあります。欧米で使われている新しい抗うつ薬の治験が日本でも行われているので,欧米のアルゴリズムに従った治療が可能になるのかなと思います。

 いちばん大事なポイントは,治療用量,十分な量を使うということです。そのような意味では新しい薬は期待できるものが多いのではないかと思います。

抗うつ薬と繰転の問題

久保木 よく問題にされるのは,抗うつ薬を使うと逆に操転してしまうということです。その点,SSRIは三環系抗うつ薬よりはそのような作用が少ないというデータが欧米では出ていますが,田島先生のこの1年間の経験ではいかがでしょうか。

田島 操転は少ないといわれていたのですが,実際に使ったところ,躁転が予想以上に出たという話をよく聞きます。SSRIはうつには少し弱いという医師もいますが,逆にいうと,操転するほどの効果があるともいえます。

 操転をどうとらえるかというのはアメリカでも議論になっているところです。従来は薬で調子が上がったものは薬剤誘発性ということで本来の疾病の経過とは違うものだという考え方だったのですが,おそらく今後,Akiskal(カリフォルニア大)とか双極性障害を研究している専門家の意見のように,そのような人は本来,双極性障害で,それにたまたま薬剤がトリガーになっただけだということになると思います。

 もともとの性格がエネルギー活動性レベルの高い人,あるいは従来いう少し躁うつ気質的な人がうつ状態で来院した場合には,Akiskalのいう仮性単極性障害(pseudo−unipolandepression)の可能性があるということで,日本とドイツ以外はあまり病前性格ということはいいませんが,もともと活動性が持続的に高い人のうつの場合には,双極性うつ病という可能性もあるということで注意が必要なだと思います。

疾患概念と診断基準の推移
診断のこつとポイント
生活指導について
再発予防をめざして

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