つわものどもが夢の跡(ケセラセラvol.94)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 吉田栄治
2018年ロシアワールドカップは大いに盛り上がりましたね。もうあれから約3ヶ月が経ちます。日本はベスト16まで行きましたねぇ。しかし決勝トーナメントのベルギー戦は本当に惜しかった。日本では朝3時頃からの放送で、仕事に差し支えそうでしたし、生放送で見るのはちょっと心臓に悪そうでしたので、朝起きてネットで結果を確認することにしました。途中2-0で日本がリードしたということにまずは大いに驚き、ところが最後は2-3で逆転 負け!という結果に「エー!なんでぇ」という感じでした。
実力的には1-2か、1-3くらいで日本の完敗かなと思っていましたので、日本が先制して後半の途中まで2
-0でリードしていたということ自体がびっくりの状況でした。これってとてつもない僥倖(ぎょうこう)で、普通2 点差まであけたら勝ちそうなものですが・・・。追い込まれてからのベルギーの強さは‘半端なかった’ようですね。非常に残念でしたが、日本としては大変な善戦だったのではないでしょうか。
生放送で見なかったのは正解だったかなと思っています。朝3時頃からの放送で、あの試合を生で見ていたとしたら、2-0になった時点で興奮はマックスになり、しかし、その後点差をじりじりと詰められて、最後に逆転負けになってしまったことを考えると、最終的にとてつもなくがっくり来てしまって、もうその日は‘半分、仕事にならない’可能性もあったなと思いました。
感動したあと
前回のケセラセラで感動するということについて書きました。元気がない時も、ちょっとしたことでいいので、何かしら心を動かされるものがあれば、気持ちが少しだけ明るくなれるのではないかということを述べました。しかし、気持ちを入れすぎると、それが終わったあと、電池切れのようになって疲れてしまうことがあります。今はやりの言葉で言うと「〇〇ロス」という状態ですね。かく言う私もワールドカップが終わったあとは、しばらくの間、空虚感、虚脱感を少々感じていました。「夏草や兵(つわもの)どもが 夢の跡」という芭蕉の句が頭に浮かんでいる状態でした。
こんな時はどうしたらいいのでしょうか。私は、何かに大いに感動したあとや、楽しいことが終わってしまったあとは、「良かった良かった」と、感動した時の気持ち、楽しかった時の気持ちを静かに反芻するのがいいだろうと思っています。そうしないと疲労感や虚脱感をちょっと引きずってしまう。私自身、年をとってきて最近特にそう感じるようになってきました。若くて元気な頃は、何かに感動したりとても楽しいことがあったあとも、次はあれ、今度はこれと、どんどん新しいことに向かっていく活力があるのですが、ちょっと元気がなかったり、年を重ねてくると、「〇〇ロス」の期間が長くなってくるように感じます。
放電したあとは、しばらく充電期間が必要です。若い頃はバッテリーも新しいので、すぐに充電されて次の新しい ことに飛びつくことができるのですが、年をとってくるとバッテリーが少々古くなってきていて、充電までに時間がかかるようになるのだろうと思います。元気がない時もバッテリーの性能がちょっと一時的に落ちていると思われますから、充電にゆっくりと時間をかける気持ちが大切でしょう。楽しかったことが終わってしまったあとは、その楽しかったことをじっくり思い出しながら、ゆっくりと心身を休めましょう。
将棋の藤井七段
ところで、将棋の藤井七段( 16歳)の近況ですが、竜王戦の決勝トーナメントは、2回戦で若手強豪の増田康宏六段( 20 歳)に負けてしまい(奇しくも昨年29連勝を達成した時の相手です)、王座戦の準決勝では実力者の斎藤慎太郎七段(25歳、イケメン棋士でタイトルを獲りそうです)に破れ、先日の棋王戦では菅井竜也王位(26歳)に負けてしまい(さすがにタイトル保持者は強かった)、藤井七段の今年度のタイトル挑戦はなくなってしまいまし た。大変残念です。ここでも少し「つわものどもが・・・」という気持ちになってしまいました。しかしこちらはまだまだ夢は終わっていませんし、これからも藤井七段を応援していきます。来年度のタイトル戦(全部で8つあります)の予選も既に始まっていますので、来年度は是非とも最後まで勝ち進んでタイトルに挑戦してほしいものです。そして屋敷伸之九段のもつ、タイトル挑戦の最年少記録(17歳10ヶ月)の更新に挑んでいってもらいたいと思っています。