ギャンブル症について(ケセラセラvol.101)
医療法人和楽会 横浜クリニック 院長 山中学
今回は、色川武大の事を書こうと思っていたのだが、色川武大、別名、阿佐田哲也であり、雀聖とも呼ばれる伝説の雀士である。最近、賭け麻雀が話題でもあり、ギャンブルを推奨するつもりもない。ということで、ギャンブル依存についてふれておかなければいけないかと考えた。
娯楽の範囲にとどまるギャンブルも含めて、すべてが問題だということではなく、アメリカ精神医学会の診断基準、DSM -5では以下のようなことが繰り返されていることが問題であると定義されている。
1 興奮を得るためにギャンブルにかける金が増えている
2 ギャンブルを切り上げたり、止めたりすると、いらいらする
3 ギャンブルを控えよう、止めようとしても、できない
4 ギャンブルのことばかり考えている
5 つらい気分をまぎらわすために、ギャンブルをすることが多い
6 ギャンブルで負けた分を取り返そうとしてギャンブルをする
7 ギャンブルにのめりこんでいることを隠そうと嘘をつく
8 ギャンブルのために、重要な人間関係、仕事、学業などで失敗したことがある
9 ギャンブルが原因の借金を他人に肩代わりしてもらう
この9項目の内、過去1年の間に4項目以上あてはまれば、ギャンブル症と診断される。
過去には、意思の弱さや性格の問題からギャンブルがやめられないとみなされることが多かったが、現在は、依存症の一つであるとされている。神経伝達物質の一つであるドーパミンが不足する病気であるパーキンソン病に、ドーパミンを増やす治療をおこなったところ、突然ギャンブルにのめりこむようになるということがある。ドーパミンが関係しているのである。
ギャンブルによって得られた興奮が、繰り返されるうちに、脳がその刺激に慣れてしまい、より強い刺激を求めるようになったり、ギャンブル以外の刺激にあまり反応しなくなったりしていき、コントロールできなくなってしまうという脳機能異常が起きていると考えられている。
ギャンブル症の有病率についての調査は過去にいくつかあるが、2017年に久里浜医療センターなどの研究班がおこなった調査では、成人の3・6%(約320万人)が生涯で1回はギャンブル等依存症の疑いありと診断され、1年間でみると0.8%(約70万人)がギャンブル等依存症の疑いありと診断されると推計された。最も多いのはパチンコ、パチスロであって、いわゆるパチンコ、パチスロ依存は約57万人と推計されている。
今回の新型コロナウイルスの自粛の中でもパチンコ・パチスロ屋に並ぶ人々がニュースになっていたが、その中には、控えようとしてもできない、不安な時には余計にパチンコ、パチスロがしたくなってしまう、ギャンブル症の人が含まれていたのだろう。
2018年に成立したIR整備法(カジノ法案)によって、今後、日本にもカジノが作られることになりそうであるが、カジノができるとギャンブル依存はさらに増加することが予想される。神奈川県精神神経科診療所協会では、横浜へのIR誘致に反対の姿勢を明確にしている。
『三たびの海峡』や『閉鎖病棟』で知られる、帚木蓬生は、精神科医でもあるが、ギャンブル依存患者を数多く治療しており、昨年、『やめられない ギャンブル地獄からの生還』が文庫化された。ギャンブル依存の診断、基礎知識、治療についてわかりやすく書かれている。特筆すべきは、第1章の症例集である、患者自身の手記という形で6つのケースが挙げられているのだが、ふとしたきっかけからパチンコ・パチスロがやめられなくなり、嘘や借金を繰り返し、家族までも不幸にしてしまう物語が、これでもかこれでもかと繰り返され、読んでいると、どんどんと息苦しくなってくる。
治療については、有効とされる薬物療法はなく、集団認知行動療法は有効とされるが、実施できる医療機関はきわめて少ないのが現状である。帚木は自助グループを勧めている。当事者だけで集まり、定期的ミーティングなどで支え合う自助グループはアルコール症におけるアルコホーリクス・アノニマス(略称AA)が知られているが、ギャンブル症についてもギャンブラーズ・アノニマス(略称GA)があり、日本に188のグループがあるという。自助グループで治るのだろうか?と言う疑問にも、帚木は丁寧に答えている。良書だと思う。
〇帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)『やめられない ギャンブル地獄からの生還』集英社文庫、2019年