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コロナ禍を私たちはどう乗り切るか(ケセラセラvol.102)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

前項ではコロナ禍における不安症の人々の様子を寸描しました。その結論を簡単に言えば、不安症状を悪化させる人は少なく、むしろ生活しやすくなっている人が多いということでした。
さらに、大変興味深い事例を紹介しますと(本人家族の了解済)、クリニックに通院していた12歳の男児はコロナ禍以前には強迫観念と激しいチック症状が1年間余続いていましたが、コロナ禍になり症状はほとんど消えてしまいました。その男児の両親はレストランをやっており深夜まで帰宅できず、祖父母がその患児の面倒を見るという家庭でした。しかし、コロナ禍でレストランは営業自粛となり、両親が家に居る時間が大幅に増え、夕食を家族が揃ってできるようになりました。その結果、不安が低減し症状が改善したと考えられたのです。児童期の子供には家族団らんが非常に大切であることを教えてくれました(正木ら、2020)。

医療法人和楽会で診療する医師達のおおまかな感想は、不安症の増加や悪化はあまり見られず、むしろ軽快した人のほうが多いというものでした。
ここで不安症の発症頻度を先進国と発展途上国で比較した興味深いデータを紹介します(図1)。

図からわかるように、パニック症も社交不安症も先進国では数倍発症率が高いことがわかります。要するに高度科学技術が進歩した先進社会は不安症の人にとっては好ましくない環境なのでしょう。高度に進化した現代社会の特徴として、自動化、画一化、過密化、情報過多、スピード化、グローバル化、などがあげられます。これらの状況は多かれ少なかれ不安の原動力となる環境であると考えられます。コロナ禍により人と人との接触が減り、経済は低迷し、これらの近代化現象が停止、または低減した状況が続き、不安症患者にとってはむしろ好ましい場合も多いのではないでしょうか。

さて実際には、コロナ禍になって人々の生活はどのように変わったのでしょうか。三密回避や在宅勤務により人と会う時間が少なくなり、束縛される時間が減りました。その結果としていろいろな社会現象の変化 ― ソーシャルディスタンス、ロックダウン、隔離、テレワーク、オンライン会議、ワーケイション、巣ごもり生活 ― などが出てきました。自由な時間が増えた時に私たちはどのような行動を多くとるのでしょうか。

ニッセイ基礎研究所「暮らしに関する調査」での増えた行動は次の如くでした…テレビ:51.6%、ネットサーフィン:44.4%、動画配信サービス視聴:27.9%、睡眠:23.2%、インターネットショッピング:20.9%、本や
雑誌・新聞を見る:17.7%、SNS投稿や閲覧:16.4%、掃除:15.8%、メール他LINE:12.7%、料理:12.6%勉強、自己啓発:9.6%運動:7.7%
この結果を見て感じることは、人は変革に際して、たやすきに流れる人、それまでの生活を保とうとする人、心を引き締めて上昇志向をとる人、それぞれあるのだなと感じます。

まず、私たちが最も注意をしなければならないことは運動不足に陥らないことです。それには日常生活の時間割を決め、必ず体が動いている時間を作ることです。そして、快眠・快食・快便に心がければ免疫力が増し、COVID -19への抵抗性が高まります。また、自然に親しむ時間やマインドフルネスに励む時間を今まで以上に多くとることもできます。このようなことからコロナ禍により人間性回復の第2のルネッサンスを迎えている人がいると私は考えています。
さらに、コロナ禍のインドでは今まで見えていなかったヒマラヤ山脈が見えるようになったということです。それと同時に、地球全体のCO2濃度が昨年と比べて一時は17%も減少したそうです。コロナ禍という災いを転じて福としたいですね。
来年の冬号の出る時期には、ワクチンも完成しCOVID -19の心配がない年を迎えたいものです。

 

文献
正木美奈他 コロナ禍の不安症クリニック-COVID -19が人間性回復ルネッサンスを招く
月刊『精神科』第37巻第6号(2020年12月)

 

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