本の紹介「超筋トレが最強のソリューションである筋肉が人生を変える超科学的な理由」 第2章 (筋トレは最強のアンチエイジングである)(ケセラセラvol.102)
医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック 院長 岸本智数
新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が5月25日に全国で解除され、近畿東海関東では6月10日頃から梅雨入りし、湿度と暑さでウイルスの活動も弱まるかと思われましたが、7月に入った頃より再びPCR検査陽性者数が増加の一途となってしまっています。
ランニングなどの屋外での運動や、ジムや水泳への通いを再開された方も多いと思いますが、PCR検査陽性者数がどんどん増えていることに加えて、8月に入り梅雨明けして真夏日や熱帯夜が続いていますので、皆さん感染症と熱中症など体調には引き続き充分ご注意ください。
さて今回も、前回に引き続き文響社から出版のTestosterone,久保孝史らが著者の「超筋トレが最強のソリューションである 筋肉が人生を変える超科学的な理由」の第2章、サブタイトルは「筋トレは最強のアンチエイジングである」について、ご紹介したいと思います。
アンチエイジングとは直訳すると「抗加齢」で、人間誰しもが年齢を重ね老化していくわけですが、この老化を防ぐすなわち「抗老化」という意味になります。Wikipediaによると、抗老化医学とは、人間の本来の姿、本来の寿命、私的な状態に心身ともに持って行くことを目的とする医学及び周辺科学をも含む集学的医学であるとされています。
また、抗加齢医学会の定義によると、アンチエイジング医学とは、加齢という生物学的プロセスに介入を行い、加齢に伴う動脈硬化やがんのような加齢関連疾患の発症確率を下げ、健康長寿を目指す医学である、とされています。超高齢化社会に突入している日本において、加齢による疾患として社会問題になってきているのがサルコペニアです。サルコペニアとは、加齢に伴う筋肉量や筋力の減少のことを指します。
この本の中では2013年の厚生労働省「国民生活基礎調査」から引用されていますが、最新の2019年のデータを見てみても、要支援になってしまう原因は関節疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒といった「運動器の機能低下」ですべてが占められています。要介護になってしまう原因の第1位が認知症、第2位が脳卒中、そして第3位が骨折・転倒と高齢による衰弱です。サルコペニアが進むと、フレイルという要介護の前段階の虚弱状態になってしまうこともありますし、そもそも活動性が低下し転倒して骨折しやすくなり、寝たきりになる可能性が高くなり、認知症が進行しやすくなります。超高齢化社会において、加齢による筋肉量や筋力の減少を防ぐことは、骨折・転倒による寝たきりを防ぎ、認知症のリスクも低下させ、介護による人的経済的負担を軽減させる可能性があります。
年を取ってからでも筋トレをすれば筋肉量が増えるかについての研究があります。
2016年に米国でLixandraoらが行った研究では、60歳前後の男女に筋力トレーニングを行わせたところ、10週間で平均7~8%もの筋肉量の増加が確認されました。また、加齢に伴い骨粗鬆症が進み骨の強度が低下し、骨折しやすくなりますが、これも筋トレで改善出来る可能性が高いのです。
2017年にBone誌に掲載された論文によると、平均年齢44歳の男性を対象に12ヶ月にわたって筋トレ、もしくはジャンプトレーニングをさせたところ、骨形成を阻害するタンパク質が減少し、逆に骨形成を促す物質の分泌量が増加することが明らかになりました。さらに同グループは、中― 高高度の強度でトレーニングすると、6ヶ月後に脊柱の骨量増加が、12ヶ月後には骨盤の骨量増加が認められたそうです。
2001年のLangbergらの研究では、20歳前後の若者にコンバットトレーニングなどのエクササイズを行わせた結果、4週間後と11週間後のI型コラーゲンのターンオーバー(生まれ変わり)の指標が有意に増加していたそうです。I型コラーゲンは皮膚の弾力や強度に関与しているとされるので、エクササイズは美容に良いのかもしれません。
さらに、2003年のColcombeらの研究によると、有酸素運動にプラスして筋トレを行うと、有酸素運動のみを行った場合よりも認知機能に対する効果が高く、2009年のBusseらの研究では、筋トレ後に高齢者の記憶力が向上することも報告されているそうです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための外出自粛や在宅ワーク、さらに猛暑による外出機会の減少などにより、以前に比べると確実に運動量が減っています。外来で皆さんの話を伺っていても、運動不足や体重増加、体力低下を言われる方が非常に多いです。特に新型コロナウイルスについては長期的な対応が必要となりそうな状況です。
そうなると、この運動量の減少による運動不足や体力低下も長期にわたる可能性があり、そうすると将来的には先ほど紹介した筋肉量や筋力の低下につながり、それが転倒・骨折などによる運動器の機能低下につながり、最終的には認知症につながる可能性も否定出来ません。
Testosterone氏はこう言います。「人生で一番若いのは常に今。年齢なんてただの数字に過ぎない。ご老人でも時の流れに逆らって筋肉を成長させられるんだ。君にできない理由なんてあるのか?」
ウィズコロナ、新しい生活様式とよく言われていますが、いま感染予防に努めることはもちろん大切ですが、5年後10年後20年後を見据えたアンチエイジングのためにも、感染予防そして暑さ対策の上で出来る筋トレ、エクササイズを行っていきましょう。