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病(やまい)と 詩(うた)【56】— コロナ~嘘を映し出す鏡 —(ケセラセラvol.102)

東京大学名誉教授 大井玄

新型コロナウイルスのパンデミックについて、筆者が最初に本稿で触れたのは今年の2月だった。
当時、世界の感染者は、米国ジョンス・ホプキンス大学の集計では、8万人に達せず、死者は2000人を少し超えているだけだった。
しかし5月の中旬には、感染者約463万人、死者は約31万人と爆発的に増えており、今回、8月後半には、世界の感染者は2200万人を超え、死者は約80万人である。5月からの2か月あまりの間に世界の感染者は4倍以上増加している。
 
流行のトライアングル

感染症の被害拡大について「流行のトライアングル」つまり病原体、ホスト(宿主)、環境条件という三極から吟味する公衆衛生学の手法については前々回にすでに説明した。病原体の感染力、ホストの免疫抵抗力なども重要だが何よりも環境条件が流行に大きく影響する。
今回のパンデミックで際立っているのは、国の指導者の、コロナウイルス流行への対応態度の違いである。それは科学の論理を尊重するか無視するかの違いと言えよう。
中国の習近平主席は、初期対応において自分の犯した過ちに気づくと同時に、武漢というクラスター発生を起こしつつある個所を完全に封鎖し、感染拡大を防いだ。独裁国が行う鮮やかな対応である。その効果は抜群だった。統計を操作しているにしても、5月半ば感染者数84,044人であったのに8月3日時点で87,985人、(わずか4000人の増加!)との報告には吃驚させられる。
ドナルド・トランプ大統領のコロナパンデミックへのピエロを思わせる対応は、アメリカ以外のすべての国にも伝えられたが、いずれにせよ公衆衛生学で「流行のトライアングル」が取り上げられる場合には、「国の指導者による失敗の事例」として伝えられて行くだろう。

トランプの強み

WHOは、1月4日コロナウイルスにについて警鐘を鳴らし、同月末には「国際的公衆衛生緊急事態」を宣言し、2月に入っても緊急性の警鐘を鳴らし続けた。
これに対し、トランプはWHOの警告を無視するばかりか、「感染症は完全にコントロールされている」と言い張り、感染患者の数は減っていって「消えてしまう」と断言した。
4月には、「コロナウイルスは消毒薬に弱いから、それを注射したらよい」と発言した。消毒剤の製造元は慌てて消毒剤を飲んだり、注射しないように警告を出した。
言うまでもなくアメリカは、コロナウイルス流行で世界最大の患者と死者を出し、感染のエピセンターとなっている。
5月半ばに感染者数は150万人に届く勢いだったが、8月初めには470万人近くまで膨張している。その間に死者は約9万人から15万人以上に増えた。
そのような情況についてトランプはどう言っているのか?

8月4日のCNNニュースで彼は胸を張った。「フランスやドイツに比べ、我々は素晴らしいことをやっている」さらに、「我々はすごくよくやっている。ウイルスは消退しつつある」
確かにEUでの感染のすさまじさは、わが国でもテレビで生々しく報道されている。
しかし、トランプが引用したフランスとドイツの感染情況は、比較のためにアメリカと同じ時期について観てみると、5月半ばでは、感染者数は、フランスもドイツも18万人足らずだった。8月初めには、フランスでは23万人足らず、ドイツは21万人超と精々5万人の増加である。その間のアメリカでの200万人以上の増加に比べると可愛らしい増え方としか見えない。
死者についてもフランスは2万8000人から3万人へ、ドイツは8000人弱から9000人超と1000人から2000人増に過ぎない。アメリカでは約6万人の死者増であるから、人口比にしても比較にならないほどフランス、ドイツは軽微である。
8月5日のCNNは、トランプが「アメリカの死者は死者のリストの一番下にある」と言っているのは誤りである。アメリカは世界人口の4%に過ぎないのに、死者のほとんど23%を占めているではないか、と指摘している。
ドナルド・トランプの強みは、こういう信じがたく、単なる誇張とは言い難い「嘘」を、いささかの疚しさを感じずに、平気で言い張る能力である。

損しない嘘

彼の姪で臨床心理士のメアリー・トランプによると、彼が嘘をつくのは、まず、嘘つきの間で育ったからである。次いで、誇張と戯言をいうと、その傷つきやすいエゴが休まるからである。さらに、彼が嘘をつくのは、何時も嘘をついていてそれに慣れてしまい、嘘の手痛い代償を払うことが嘗てなかったからだろうという(1)。

5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが警官によって頸を押さえつけられて死亡した。「息ができないよ!」という彼の悲鳴と懇願は世界中に伝わり、「黒人の命も大切だ」“Black lives matter”というスローガンを掲げたデモ行進が、東京を含む多くの都市で見られた。
そこには警察が示すことの多い人種差別に対する抗議が含まれているのは明らかであった。
これに対しトランプ大統領は「法と秩序」の保持者という姿勢を明らかにし、民主党の大統領候補ジョー・バイデンが警察を廃止せよと誓った、と宣伝した。もとよりそのような事実はない。
人種間の緊張も増したが、この7月にも彼は胸を張って言った。「私はアメリカの黒人のために、おそらくアブラハム・リンカーンを除いて、もっとも多くのことをやってあげている」

コロナという鏡

彼の大言壮語がどのように嘘と誇張で固められていても、彼の支持者にとっては気持ちの良い話であろう。嘘だと決めつける方法がない場合には、好き嫌いで判断するのが自然である。
コロナ感染を防ぐためには、集団の中にいる際にマスクをするのが科学的事実に基づいた常識である。

だがトランプ大統領はマスクをするのが嫌いであった。彼は、マスクをするしないは、「個人の自由」に属すると唱えた。軍の施設を訪れた時、施設側はすべてマスクをしているのに彼だけがマスクをしていない場面が放映されたことがある。
彼の支持者たちでマスクの効用をバカにする者が多いのは当然だった。しかしこの雰囲気は、彼の支持者であり、自分自身が共和党大統領候補でもあったハーマン・ケインの死によって変わりはじめた。
ケインはトランプ支持大会で、マスクをしない友人たちに囲まれている誇らしげな姿をツウィートした。「素敵な時を過ごしているよ」。
九日後、彼はコロナに陽性であることが判明し、それに続く死であった。享年74歳。

トランプ大統領のツウィート好きは有名である。フェイスブックも使っている。ところがこれらのメディアがトランプのツウィート「子供はコロナウイルス(Covid-19)をほとんど受け付けない」を削除した。
子供は感染しても無症状あるいは軽症状の場合が多いが、感染は成立し、大人に感染させることもある。「受け付けない、immune」のではない。
トランプが事実と全くかけ離れた発言をしている様子は、「コロナという鏡」に鮮やかに映っている。  了

 

文献
(1) ML Trump. Too Much Never Enough:How my family created the world,s most dangerous man 2020

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