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わたしのこころの見立てかた その3(ケセラセラvol.107 樋山光教)

医療法人和楽会 横浜クリニック 院長 樋山光教

話を続けましょう。今回のお題は「沈黙を守る」です。

・沈黙を守る

TEDという欧米で人気のあるプレゼン番組があります。これはその中の、エルネスト・シロッリという発展途上国で起業支援をするイタリア人のお話です。
彼が若い頃アフリカ南部の内陸国ボツワナに農業支援に行った時のことです。ザンベジ川という大河が流れ、アフリカでも豊かな水があるのに、なぜか人々は農業を行わないでいました。彼は「なんだ簡単じゃないか!」と思いました。その気のない現地の人々をお金を払ってまで集め、農業のもたらす豊かな恩恵を説いたのです。そしてイタリアントマトやズッキーニがこの地でたわわに実るのを見せようと思いました。そしてそれらが立派に熟れ、収穫できるところまで漕ぎつけたある夜、(こちらは何の宣伝もしていないのに!)河から総勢200匹のカバたちが現れ、一夜にしてすべてを食べ尽くし去って行きました。

この惨状を目の当たりにしたシロッリは現地の人を呼んで「なぜ教えてくれなかったのか!?」と尋ねたら、答えはこうでした。「だって訊かなかったじゃないか」。
つまり彼は現地の人に「なぜ農業をしないのか?」と全く訊くことをしませんでした。現状に対して全く無知のまま、自分の思い込みで突っ走った結果を思い知らされたのです。
その後彼はコミュニティーに入り、皆に指示する代わりに彼らの話を聴くようにしました。真に支援を求めている人に出会い、相手のことを理解しようと積極的に「黙って」話を聴いたのです。すると現地の人の‘本音’が語られ、相手の要請に応じる「起業支援」に繋がり、効率的で有用な活動が軌道に乗るようになったということです。
彼はTEDでこう言っています。
Want to help someone? Shut up and listen!(人を助けたいなら、黙って聴こう!)
これは極めて単純な教えですが、患者さんの話に「口を挟まないで聴いていく」のは、少なくとも私にとってはなかなか難しいことでした。ついつい患者さんの話の腰を折って流れを堰き止め、意識的には善意であれ、余計なコメントさらにはアドバイスをしたい独りよがりの欲求が頭を擡げやすいものです。それに抗うのは習慣化するまではかなり大変でしたし、その後も投薬や書類作成という現実的対処を求められる状況によっては時として困難になります。

最近亡くなられた恩師から、研修医時代に熱心に教えていただいた言葉も、これと同列のことで、このことがずっと自分の問診の指針になってきました。昔はドイツ精神医学が盛んだったので、その言葉も格調高くドイツ語でした。
gleich bewegende Aufmerksamkeit(ともに揺れる注意)
です。つまり患者さんの話したい方向にできるだけ一緒につきあって聴いていくというものです。この患者さんが話したい方向というのは、意味のあることなので、私のイメージでは「朝顔の弦(つる)が伸びる方に任せて」‘本音’を伺うというスタンスです。ただ実務的には時間が限られているので、沈黙/傾聴は決められた時間とのバランスの中で考えていくことになります。

・陰性感情を抱える

次は治療者の力量が問われることですが、不安や抑うつ、怒りといった患者さんの「陰性感情を抱える」ということについて話を進めたいと思います。
これは聞き手側である治療者が患者さんの示す「陰性感情に反応して拒絶的な態度を取らない」のは勿論のこと、「包み込んで適切に返す」ということです。これは想像に難くないと思いますが、かなり骨の折れる心理的な仕事で、治療者の感じる疲労のかなりの部分を占めます。しかしそれは治療の大切な部分を構成しており、不可避なものと言えます。なぜか治療者に対して怒りを向けてくる方、不安で泣き崩れる方、落ち込んで死にたいと言われる方などを前にして、当然治療者としては可能な限り「包み込んで」何とかしてあげたいと思います。
さてそのためには同時に一歩引いて、その感情が出てくる源泉、全体の流れを感じ取るようにします。それが読み取れれば、本人のニードが分かり、「適切に返す」ことに繋がります。「つらいね」と言葉にするかどうかは別として、治療者がこのように何とかしたいと思いをめぐらすことは、患者さん本人の抱えている‘辛さ’を「共に抱える」ことになるので、その心の負担は、それなりに軽減されることと思います。
イメージ的には、衣類の「染み抜き」に似ていると思います。つまり、あて布にシミが移った(治療者側の心的疲労の)分だけ、シミが薄く(患者さんの心が軽く)なるイメージです。その治療的意味合いについては次回に回したいと思います。それではまた。

 

参考文献
・こころのとらえ方に役立ついくつかのこと 樋山光教 聖路加看護学雑誌 2019;22(2)
・Want to help someone? Shut up and listen! Ernesto Sillori : https://jp.voicetube.com/videos/1354
・精神療法をめぐる「同行二人」 精神療法、増刊第2号114-119

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