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病(やまい)と 詩(うた)【62】—不思量底を思量する—(ケセラセラvol.108 大井玄)

東京大学名誉教授 大井玄

道元禅師は、坐禅は「不思量底を思量する」営み、つまり「非思量」だと述べています。
前号のケセラセラでは、貝谷久宣理事長は、禅の達人たちが「非思量」についてどう解釈しているのかを尋ねました。
筆者は達人でもなんでもなく、毎朝、野狐禅をするだけの者ですが、宮川敬之師の理解「非思量底をロゴス的思考(私たちが普通使用している理屈で物を考える思考)ではなくレンマ的思考(第六感的思考、直感的思考)で得られる」に同感しています。

ロゴスとレンマ
ヒトは言葉を使って考える点が他の生物とちがいます。言葉にはロゴス的論理つまり因果律的論理があり、それによって異なる言語であっても理解が可能です。
ロゴスはギリシャ哲学でもっとも重視された概念であり、『ロゴスとレンマ』の著者である哲学者山内得立によれば、語源的には「自分の前に集められた事物を並べて整理する」を意味しています。思考がロゴスを実行するには、言葉によらなければなりません。
当然のことながら、思考は線形的に進みます。しかし我々の置かれた環境は三次元世界で時間とともに変化してゆきます。さらにその世界の一部としての
自分。それらを言葉で理解するには、多くの言葉を使い、世界の特色を並べていくという作業が必須になってきます。しかもその世界理解を、総て言語化することは不可能です。せいぜい可能なのは、その人の目に映った世界の特色を並び立てることでしょう。
これにたいして、レンマは非線形性や非因果律性を特徴としています。語源的には「事物をまるごと把握する」で、ロゴスとは異なる直感的認識がレンマの特徴であるとされています。仏教はギリシャ的なロゴスではなく、レンマ的な知性によって世界をとらえようとしたことを、中澤新一がその『レンマ学』で指摘しました。

粘菌の環境理解
粘菌は変形菌とも呼ばれる不思議な生物です。
まず胞子が発芽すると、中から1匹の粘菌アメーバが生まれます。アメーバは水の中ではべん毛をはやしてべん毛細胞に変身できますが、乾いたところでは粘菌アメーバへと戻ります。粘菌アメーバにはオス・メスがあり、異なる性が出会うと接合します。
カビのような、コケのようなものが湿った枯葉や朽木の中を網目状に覆っているのを見ることがあります。それは、粘菌アメーバが接合したのち成長した変形体です。
変形体は核分裂をおこなうが細胞分裂はしません。したがって変形体は、多数の核を持つが1つの原形質よりなる細胞で、這いまわり、細菌や他の菌類など、周りにいる餌となる生き物を食べからだを大きく成長させます。
成熟した変形体は、やがてきのこのような子実体を形成します。この子実体には「子のう」と呼ばれる袋があり、その中で、減数分裂の後に、たくさんの胞子が生まれます。
変形体の網目構造は、菅の網目構造で、血管網の様に栄養分や化学信号が流れていて、変形体内を循環しています。その流速は太い管ほど高く、情報ハイウエイとしての機能をも果たしています、
粘菌は賢い生物です。
たとえば、おなかを減らした粘菌の変形体を迷路の中に入れ、小さめの餌を、離れた2つの場所、におきます。粘菌は、はじめ迷路に隈なくからだを伸ばしていくが、2つの餌場で養分を吸収しはじめると、他所に伸ばしていたからだをちぢめ、最後には2つの餌場を1本の太い管でつなぎます。その管は最短経路を通るものです。
つまり、「一刻も早くたくさんの養分を吸収する」と「変形体のすべての部分が養分吸収にあずかる」という2つの要請を同時に満たしています。
言いかえれば、ひとつの個体としてつながっているのみならず、十分な細胞内コミュニケーションをしていることになります。
中枢神経も言葉も持たない粘菌が知性を持っているのが判りますが、粘菌変形体の環境情報の理解は、身体全体によるものです。神経系のニューロンがロゴス的な情報処理を行うのと異なり、変形体に分散された知性が身体全体で、レンマ的に情報処理をおこない、常に生存のために正しい計算結果をはじき出しているのです。

相依相関:Interbeing
とはいうものの、ヒトにとっての世界理解は、言語によるロゴス的情報伝達が欠かせません。それを美しく、説得的に行ったのは、最近亡くなったヴェトナムの詩人で禅僧ティク・ナット・ハン師でした。
彼は1枚の紙を示して言います。あなたが詩人なら、この紙に太陽を見るでしょう。また蒼空、白い雲、雨、緑の森、適当な温度があるのも分るでしょう。そういうものがなければ紙を造れません。そして、木を切る木こり、彼が食べているお弁当、彼の両親、数知れない代々の先祖、その人たちが生きて来た社会、そういう総てを、この1枚にみるでしょう。
だからこの紙は、ただ1枚「ある」のではなく、それらのすべてと「一緒にある」のです。それを大乗仏教は、「相依相関」Pratitya-Samtpada, Interbeingとして纏めました。
 
からだは星からできている
医学徒として、私は彼の意見につよく賛成します。たとえば時間という要素を取りあげるだけで、私たちの身体は、宇宙開闢以来の歴史を反映しています。
138億年まえ、ビッグバンにより宇宙が生まれました。70万年ほどたって最初にできた元素が水素でした。水素の霧は雲のようにかたまりはじめ、1億年ほどして原始星が生まれ核融合をはじめました。恒星の始まりです。
恒星は核融合により元素を合成し、あまった質量をエネルギーとして放射します。太陽より4倍以上重い星では炭素、マグネシウム、酸素、ケイ素、ニッケル、鉄など20種あまりの元素が創られるが、鉄が創られた段階ですべての核融合は止まります。
鉄は吸熱作用があるため新しい反応を起こせなくなります。星の内部で燃やすものがなくなった星は、自分の重さを支えきれなくなって、勢いよく収縮し、急激に温度が上昇し、一挙に核融合反応が起こり、そのエネルギーで木っ端みじんに飛び散る。これが超新星です。このとき鉄より重い残りの元素を瞬時に合成しました。
私たちの身体には、たとえば多数の酵素に含まれる亜鉛であるとか、有害な活性酸素除去にあずかるグルタチオンペルオキシダーゼのセレンだとか、鉄よりも重い元素が、必須元素として、いくつもあります。それらはすべて、太陽よりも何倍も大きい恒星が最後に大爆発したとき誕生した元素です。
からだは星からできており、また宇宙が誕生してからの時間をも反映しています。

縁起の理法
ティク・ナット・ハン師は、1枚の紙でさえ、無数の物事の関わり合いによって存在していることを、詩的に説明してくれました。したがって、そこには永久に変わらず存続する「紙」という実体はないのです。その紙は、いろいろな条件の関わり合いにおいて「現象」しているのです。相依相関しての「現象」であれば、当然、無常、無我という縁起の理法の他の側面が見えてきます。ブッダの縁起法をめぐる説法に現れた思想です。
南インドに現れたナーガルジュナは、それを「あらゆるものは相依相関しあっているから、ものには自性や本体がなく、空である」という空論的論理に纏めました。これによって、縁起の論理は明確なレンマ的構造の体系として確立された、という指摘がなされています。
科学を齧った者の一人としての筆者には、縁起の理法が、量子から宇宙的レベルに至る存在論として当てはまるように見えることに、驚嘆するのです。(了)

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