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マインドフルネスの臨床効果と脳科学⑮ マインドフルネスがめざすもの(ケセラセラvol.109)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

従来の医学・心理学は、病気の原因追求とその治療法を明らかにすることであり、人間にとってのマイナス面を取り去ることを主な目的としてきました(パソジェネシス)。米国心理学会会長であったセリグマン博士は、それまでの心理学は人間の心のマイナスの部分ばかりに眼を注ぎ過ぎてきた、プラスの部分にもっと注ぐべきだと考えました。そして、人間にとって幸せな人生とは何かという問いに真正面から向かい合って、ポジティブ心理学を確立しました。2011年、彼は5つの概念からなるウェル・ビーイング理論を提出しました。それは、ポジティブ感情(Positive emotions)、エンゲイジメント(Engagement)、関係性(Relationships)、意味・意義(Meaning/purpose)、達成(Accomplishment/achievement)から成るもので、英字の頭文字をとってPERMAと簡略化しました。以下この各概念とマインドフルネスについて大略を述べましょう。

■ポジティブ感情(Positive Emotions)
ポジティブ感情といえば、すぐに幸せという言葉を思い浮かべるかもしれませんが、喜び、感謝、安らぎ、好奇心、希望、誇り、楽しみ、インスピレーション、敬意などポジティブ感情を表す言葉は幸せ以外にも多くあります。マインドフルネスと瞑想の実践は、ポジティブ感情を強めることによって、直接的にも間接的にもウェル・ビーイングを向上させます。瞑想の実践者は、瞑想中に喜びの感情が沸き上がってくることや、瞑想を継続していくと、安らぎや穏やかさを感じることを報告しています。慈悲の瞑想では、愛情を深め、周りの人々とのつながりを育みます。慈悲の瞑想を積み重ねていくと、実践者は注意力を養い、新奇な状況への順応力を高めていきます。瞑想以外のとき、例えば、食事、子育て、仕事などにおいて、強いポジティブ感情を体験することができるようになります。

■エンゲイジメント(Engagement)
エンゲイジメントとは物事に熱中することです。第二次世界大戦中の激しいストレスを生き抜けた人々は、柔軟な心と、人生に対して前向きな姿勢を持っていることを、ハンガリーの心理学者チクセントミハイは明らかにしました。彼らは、チェス、ロッククライミング、芸術品を作りだしているとき、我を忘れて完全に没頭する状態を体験できる人達でした。没頭しているそのときの感情体験は不鮮明ですが、没頭し終えたあとの心と体には爽快感が生じていました。チクセントミハイは、これをフロー体験(エンゲイジメントまたはゾーン体験とも言う)と名付けました。
マインドフルネスとフロー体験は注意を集中させ、今という瞬間にとどまっている点が非常によく似ていることを、チクセントミハイは指摘しています。マインドフルネスで得られる認知の柔軟性が高いほどフロー体験が得られやすいとも言われています。実際に、これまでの研究で、マインドフルネスの実践を続けていくと、フロー体験が起こりやすくなることが示されています。また、フロー体験でも瞑想中でも脳波でα波とθ波の増加が見られることも分かっています。

■ポジティブな関係性(Positive Relationships)
ポジティブ心理学では、他者と良好な関係性を築いていくことは、人間の生来の欲求を満たす行為としています。他者との良好な関係性構築は、ウェル・ビーイングには欠かせないことです。
マインドフルネスと対人関係に関する研究では、マインドフルネスによって、受容的になり、情動コントロールスキルが向上することが、良好な人間関係を築くと考えられています。マインドフルネスにより注意やアウェアネスが高まり、偏った一方的な判断がなされないようになるので、お互いに安心感や信頼感を強めて、円満な夫婦関係を保つことが出来るともいわれています。夫婦関係以外でも、他者との関係性とマインドフルな心との間にポジティブな相関があることが示されています。マインドフルネスにより、今現在に注意を向けてとどまり、偏った一方的な判断をせず、受容的な人ほど、利他的行動が多いことが報告されています。このように向社会性行動をとると、他者との新しい関係性を築きやすくなるだけでなく、密接な関係性が出来るようになり、ウェル・ビーイングが増進するものと考えられます。

■意味・意義(Meaning)
私たちにとって大事なことは、生き甲斐のある意味ある人生を生きることであります。古くは、アリストテレスは、心の奥底にあるエウダイモニアeudaimonia(幸福)にしたがって生きることが意味ある人生だと考えていました。快楽を得ることや苦痛を避けて得るヘドニア(幸福)ではなく、苦労や努力から培われる幸福、すなわち、エウダイモニアが真の幸福であります。エウダイモニアは自分を最大限に生かして、さらに善い行いをしていくことを言います。意味ある人生とは、「他者とつながること、これまでの経験に意味を見出して理解すること、こうありたいとの願いを実現しようと計画を立てること」とされています。
最近、マインドフルネスの実践で人生の意味を見だすとする“マインドフルネス― 意味ある人生の理論(mindfulness-to-meaning theory)”が提唱されています。
この理論での説明は:マインドフルネスはストレスに対して認知的評価でもって対処するのではなく、今という瞬間、瞬間への気づきを保つメタ認知によって気づいていなかった新たな情報へ注意を向けさせる。そして、今置かれている状況を把握して評価しなおさせる。このようなプロセスは、今の生活や環境のポジティブな側面へ目を向けることに役立ち、そして、その人の価値観にあった行動が生じやすくなり、最終的には幸福で意味ある人生へ向かわせる(Garland et al. 2015)、というものです。
この連載の⑫でマインドフルネス訓練により、社交不安症と慢性うつ病が治り、“マインドフルネス― 意味ある人生の理論(mindfulness-to-meaning theory)”にまで至った患者さんの手記が掲載されています。

■達成(Accomplishment/Achievement)
セリグマン(2011)によれば、達成感は外的な動機づけ(例えば、お金、名声、権力)によるものと内的な動機付け(例えば、親の役目を果たす能力や瞑想の実践家としての能力)から達成感が得られるとしている。もちろん、ここでの主題は内的な達成感です。私たちは他者から褒められることによって達成感を感じることも多いですが、達成感をはっきりと感じるためには、自分は物事をうまくできる能力があるという気持ちが不可欠です。マインドフルネスは練習するほど上達していきますが、目にみえて明らかにわかるような外的なものではなく、それはとても内的なものです。しかし、上達するにつれて、セルフコントロール感が高まり、達成感につながっていくと考えられます。瞑想は精神鍛錬のための実践ですから、何かしらの良いことがあるであろうという期待は好ましくありません。マインドフルネスでは、良い結果を気にしすぎてしまうと上達が遅れます。呼吸や腹部の動きへの注意をしっかりと向けられるようになると、集中力や情動コントロールの能力が高くなり、結果的に、マインドフルネス実践者は多大な恩恵を受けることになります。そして、やがては達成感を得ることにつながっていきます。
最後に、私の言いたいことは、マインドフルネスに気長に黙々と向かい合っていけば、必ずウェル・ビーイング、素晴らしい人生が得られる、ということです。

参考文献
マインドフルネス精神医学、2019、貝谷久宣監訳 新興医学出版社

 

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