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病(やまい)と 詩(うた)【64】—縁起の理法から観たウイルスと私たち—(ケセラセラvol.110 大井玄)

東京大学名誉教授 大井玄

新型コロナウイルスの流行は第七次を迎えました。
ウイルスの生存戦略は、できるかぎり多くの宿主に感染することです。そのため感染力を高め、毒性を低くする方向に変異を繰り返していくように見えます。
しかしウイルスに感染するのは嫌ですから、「ウイルスは敵だ」という声を聴くこともあります。果たしてそうでしょうか。

地球、生命の始まり、ウイルスの般在性
46億年前に誕生した地球に、生命が誕生したのは約40億年前と言われます。
生物の遺伝情報は、核酸のつながりの集合によって成り立っています。ウイルスは核酸の比較的に短いつながりであり、真核生物(細胞核を持つ動植物)、原核生物(核のない細菌)、古生菌のすべてに寄生していました。
ウイルスはどこにでもいます。海岸ですくったひとさじの海水を調べると、数百万のウイルスがいるといわれます。
地球表面の70%を占める海洋は、地球の酸素の約半分を製造しています。それを行うプランクトンのような微生物は、海洋の生物量の90%を構成しているが、ウイルスは、一日にその約20%を殺して、蛋白などの栄養素を海水中に戻しています。
それぞれのウイルス感染は、新しい遺伝情報を、感染された生物で作り出す可能性があります。
通常、遺伝子は親から子へ「垂直に」移動するが、ウイルスは、生物の個体間を「水平に」遺伝子を移動させることができます。
その一例として、ヒトの遺伝情報(ゲノム)は2003年すべて解読されていますが、自分の身体のたんぱく質をつくる遺伝子はわずか1・5%にすぎず、約半分はウイルス由来であることがわかりました。多くは「トランスポゾン」と呼ばれる自由に動き回れる遺伝子の断片です。進化の途上でヒトの遺伝子にもぐりこんだものです。
生物は感染したウイルスの遺伝子を自らの遺伝子に取り込むことで、突然変異をおこして遺伝情報を多様にし、進化を促進してきたと考えられます。

哺乳動物の発生にはウイルスが必要だった
新型コロナのパンデミックで、「ウイルスは我々の敵だ」という人たちは、わたしたちが哺乳動物の一種であり、哺乳動物の発生にはウイルスが必要だったことを知っているでしょうか。
わたしたちは遺伝子のそれぞれ半分を父と母から受けついでいます。免疫にたずさわる母のリンパ球は、「自己」と「非自己」を峻別し、後者を排除します。
胎児は父からの遺伝子をも持っているため、母のリンパ球は「非自己」つまり異物として胎児を排除するはずです。なぜそれが起こらないのか。
実は胎盤には一枚の細胞膜があり、それは栄養分は通すもののリンパ球は通さない。1970年代、哺乳動物の胎盤から大量のウイルスが見出され、この細胞膜は、1988年スウェーデン・ウプサラ大学の研究者たちによって、ウイルスが造ったものであることが明らかにされました。

ヒトと病原微生物の共進化
約20万年前にアフリカに現れたヒト(現生人類・ホモサピエンス)は、5万年ほど前にアフリカを出てユーラシア大陸に広がっていきました。
エイズ、パピローマウイルス、水痘、はしか、成人T細胞白血病などのウイルスや結核などの病原微生物は、アフリカに起源があります。宿主のヒトとともに進化しながら、世界に拡散していったと思われます。
先述したように、ウイルスの生存戦略は、できるだけ多くの、宿主に入り込むことです。そのためには感染したときの毒性が軽い方がよいのです。毒性がつよく顕著な感染の跡を残す場合、ヒトもウイルスとの闘いに全力を注ぐだろう。その記念すべき例が天然痘の撲滅。天然痘は1980年北アフリカの患者を最後に根絶されました。
逆にウイルス感染の症状が軽い場合には、ヒトの反応も穏やかなため、ウイルスは次々に多くの宿主に移っていくでしょう。単純ヘルペスはその一例で、口唇に水疱を作ったりするが全身症状は軽いことが多い。乳幼児期の初感染では、症状がないかあっても軽い場合がほとんどだが、ヘルペスウイルスは三叉神経節に潜伏しており、高齢になり体力が低下した際に再活動し、脳の記憶をつかさどる側頭葉内側・辺縁系に炎症を起こし、アルツハイマー型認知症を起こすという説が有力になりつつあります。
台湾のツェンらは、2018年、単純ヘルペス感染症がアルツハイマー型認知症を起こし、抗ウイルス薬で治療しておくと発症が予防できるという、十数年にわたる臨床疫学的研究報告を行いました。
超高齢者の認知症はアルツハイマー型がほとんどだから、長命になりつつあるヒトと、ウイルスの、追いつ追われつの共進化を示す例とも言えましょう。

ウイルスは健康の維持にも役立っている
ウイルスは私たちに病気をもたらすだけと思うなら大まちがいで、身体の生理機能に必要な存在でもあるのが判ってきました。
腸内には100兆を超す細菌が生息するが、その数十倍のファージ(細菌に寄生するウイルス)が存在すると推定されています。糞便の約半分はこういった微生物です。
ファージの種類の分布には世界規模で共通した傾向がみられ、潰瘍性大腸炎など消化器の病気にかかるとこの傾向からの逸脱が生じる。このことから、ファージは腸内細菌のバランスを維持することで、健康の維持に役立っていると推測されています。
皮膚には一兆に達する皮膚常在菌が生息しており、多くは皮膚の美容や健康の維持に役立っているが、ファージは間接的にこれらの役割を支えていると見なされています。

関係性においてつながる
パンデミックに関連してヒトと感染症のかかわりの歴史を調べると、「無常」、「無我」、「相依相関」という、ブッダの説いた存在の関係性がつねに成り立っているのに気づきます。
「無常」、「無我」、つまりあり方の変化の速さという意味では、ウイルスに匹敵する者はないでしょう。ヒトの世代交代には約30年かかるが、ウイルスの進化の速度はヒトの50~100万倍に達します。大腸菌は条件さえよければ20分に1回分裂します。
現生人類の歴史はせいぜい20万年だが、微生物は約40億年を生きてきました。
「相依相関」(interbeing)とは、ひとつの現象は、他の現象と関係している、つながっていることです。
この視点からは、第一次大戦末期、世界で5,000万から8,000万人の死者が出たといわれるスペイン風邪(鳥インフルエンザ)の大流行が想起されます。
スペイン風邪は日本にも上陸し、二度の流行パターンを示しました。内務省衛生局(厚生労働省の前身)の統計によると、最初の流行で、死者25万7,363人(患者死亡率1・22%)、二度目の流行では、死者12万7,666人(患者死亡率5・29%)でした。
インフルエンザウイルスは、ウイルスのなかでもすぐに突然変異をおこし、亜型ウイルスを出現させやすいもののひとつです。
このウイルスは、本来、北極圏近くのアラスカ、シベリアなどの凍った湖の中に潜んでいる。春、渡り鳥のカモやガンが繁殖のために戻ってくると、ウイルスは水鳥の体内に入り、腸管で繁殖する。渡り鳥は越冬のため南下する通過点で、糞とともにウイルスをばらまきます。
たびたび世界的流行の起点になった中国南部では、アヒルやガチョウなど水鳥をブタと一緒に飼っている農家も多く、インフルエンザウイルスは水鳥からブタに感染し、その呼吸器の上皮細胞内で遺伝子の組み換えを起こす。ブタという「製造工場」のなかで、ヒトに感染する新亜型インフルエンザが生じたと考えられています。
日本から遠くはなれた土地で起こっている現象は、自分や家族が身近に患う現象につながっているのです。

コロナ感染予防
以上から、コロナ感染予防の核心は、相依相関のつながりを見極め、つながりを断つことにあるのが判ります。それには、野生生物の棲息地を侵害したり、野生生物を食することをやめる。ウイルス感染発見の世界的モニタリング・システムを完備する。三密を避ける。ワクチン接種を行うなど種々あります。それは、同時に、ウイルスや野生生物に対し、いわばある種の敬意を表することでもあるように思います。   了

 

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