マインドフルネスの臨床効果と脳科学⑰ 不安症やうつ病とデフォルトモード・ネットワーク(ケセラセラvol.111)
医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣
人が生きている時の脳活動には3つのパターンがあることが近年分かってきました。
デフォルトモード・ネットワーク(DMN)は車のエンジンのスイッチは入っているが走っていない時の状態にたとえられます。特別あることに注意が払われるのではなく、ぼんやりとして雑念にふけっている時や睡眠中の脳が示す神経活動のパターンです。一日のうちの多くの時間をDMNが占めます。車を始動し運転に熱中している状態はセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)です。運転中に赤信号に気づきブレーキを踏みます。この気づきの状態がサリエンス・ネットワーク(SN)です。
DMNの中でも脳の内側面に位置する眼窩内側前頭前皮質、前帯状回皮質、内側前頭前皮質、および後部帯状皮質は重要な働きをしています(図1)。
この部は自分に関係する言葉、記憶、感情、そして種々な外的刺激といった情報を処理しており、自己に関するさまざまな概念を形成していると考えられています。端的に言えば、DMN、とりわけ後部帯状回は自我機能と直接結びついた領域といえるでしょう。DMN内の各脳領域はお互いに連絡しあい、さらに海馬や扁桃体といった辺縁系とも連絡を取りあっています。
うつ病や不安症にはDMNの過活動状態が根底にあることが最近の脳科学で示されました(図2)。その実態は、クヨクヨ考えることの堂々巡りです。精神医学ではそれを反芻思考と言っています。反芻思考(うつ病)や心配(不安症)が強ければ強いほどうつ病や不安症は重度であることが分かっています(図3)。また反芻思考が強ければ強いほどDMN内の神経活動が盛んになります。
マインドフルネスは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と日本マインドフルネス学会では定義されています。マインドフルネスは只今この瞬間にのみ心を置くことであり、過去や未来に心をおけば考えることになります。すなわち、マインドフルネスは考えない状態を続ける練習であります。ですから瞑想状態ではDMNの活動性は低下します(図4)。マインドフルネスは反芻思考を減らし、うつ病の改善を引き起こします(図5)。
まとめますと、うつ病や不安症では反芻、心配、自己評価で頭がいっぱいになっている状況であり、これは脳科学の立場からはDMNの活動性が高まっている状態であり、マインドフルネスはこのDMNの活動性を減弱させる作用により不安症やうつ病に効果を発揮すると考えられています。
文献
Lin Y, et al., A mind full of self: Self-referential processing as a mechanism underlying the therapeutic effects of mindfulness training on internalizing disorders. Neurosci Biobehav Rev. 2018;92:172-186.
Sheline YI et al. , Resting-state functional MRI in depression unmasks increased connectivity between networks via the dorsal nexus. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:11020-5.
Shors TJ et al., Do sex differences in rumination explain sex differences in depression? J Neurosci Res. 2017;95:711-718.
Jacob Y et al., Neural correlates of rumination in major depressive disorder: A brain network analysis. Neuroimage Clin. 2020 ;25 :102142.
Panda R et al., Temporal Dynamics of the Default Mode Network Characterize Meditation-Induced Alterations in Consciousness. Front Hum Neurosci. 2016; 10:372.
McIndoo CC et al., Mindfulnessbased therapy and behavioral activation: A randomized controlled trial with depressed college students. Behav Res Ther. 2016; 77: 118.