本の紹介「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」第1章「MARCHに合格―AIはライバル」(前半)(ケセラセラvol.111)
医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック 院長 岸本智数
朝晩が急激に冷え、最低気温と最高気温の差が10度を超える日が続いています。今年6月に梅雨明けした時と同じように、急激な温度差に体が順応するまでは自律神経も含めて体調を崩しやすいので気を付けましょう。
私が行っている対策は、食べる、運動する、寝る、です。日中まだ暖かいとはいえ夏のような暑さではなくなったことと、夜は寒いとはいえまだ凍えるような寒さではないことから、最近はもっぱら走っています。ランニングすると膝が痛くなりやすかったのですが、膝の負担を少なくするような走り方を取り入れたのと、足の筋力がついてきたからか、最近は膝が痛くなることなくコンスタントに走れるようになっています。これから寒くなってくると外での運動が辛くなってくるかもしれませんが、できるだけ続けたいと思います。
さて、今回からご紹介していくのは、数学者の新井紀子氏が著者で東洋経済新報社から出版されている「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」です。
以前は映画や小説の世界であったものが今やスマホやスピーカー、車などにも搭載され、日常生活には欠かせないものとなっているAIに、元々興味があったのですが、学校に通う子供を持つ親として本の題名に注意を惹きつけられて読み始めた1冊です。
新井紀子氏は、東大合格を目指すAI「東ロボくん」の開発に携わったり、世界各国の著名人や知識人のさまざまな講演会を無料配信しているメディアとして有名なTEDで講演されたことがあるなど、非常に高名な数学者です。
今現在AIと呼ばれているものはどういうもので、何を得意として何を苦手としているのかといったことから、自身が実施している中高生の読解力を調査する「リーディングスキルテスト」の結果から将来AIに対応するためには今の教育にどのようなことが必要であるかまで、幅広く書かれています。数学者らしい非常に論理的な内容であるにもかかわらず、非常に読みやすい文章で、しかも自身がさまざまな開発や調査に関わっていることから、とても深い内容となっていて、一気に読み切ってしまいました。
第1章の最初に書かれていたのはAIとAI技術の違いについてです。世の中の様々な場面に浸透していることから、AIがすごいということは私も日ごろ感じていたのですが、その一方で映画のようにAIがいろいろな場面で人に取って代わるということがなかなか現実では見られないことは以前から不思議に思っていました。その理由がまさに、「AI」と「AI技術」の違いだったのです。
AIは、artificial intelligenceの略で、人工知能と訳され、知能を持つコンピューターという意味で使われています。人工知能というと、私の中では映画のスターウォーズに出てくるC3POやターミネーターに出てくるT-800などが真っ先に浮かびます。いずれも、まるで人間のように自分で考え行動する人型ロボットです。
映画に出てくるAIは、人間と同等以上の知能を持っていますが、今現在我々が接しているAIは部分的には人間と同等以上の能力はありますが、知能は持っていないのです。
新井氏は、遥か遠くの未来にはそういったAIが登場する可能性はありますが、近未来に真のAIが誕生することはありませんと、断言しています。
その理由は、まず人間の知能を科学的に観測する方法がそもそもないからです。自分の脳がどう動いているのか、何を感じて、何を考えているかは、自分自身でもわからないですし、文章を読んで意味がわかるということがどういう活動なのかも全く解明できていないからです。
また、AI、コンピューターがしているのは基本的に四則演算なのだそうですが、そもそも人間の知能の原理を数学的に解明できていないのですから、それを工学的に再現できるはずがないのです。この説明により、私の中で映画と現実のギャップに感じていたモヤモヤがすーっと解消されました。
いま私たちが「AI」として日常の中で接しているものは、実は映画に出てくるような真のAIを実現するために開発されてきたさまざまな技術、音声認識技術や自然言語処理技術、画像処理技術といった「AI技術」だったのです。
映画に出てくるような真のAIは少なくとも現在の技術では実現できないということは残念でもありますが、AmazonのアレクサやOK,Googleが質問に対して「よくわかりません」と返答したり、とんちんかんな返答をしても、何だか納得できるようになりました。
さらに、映画のマトリックスのように、人間をはるかに超えた知能をもったAIに人間が支配されてしまうといった恐れは現時点ではないということに安堵も覚えました。そして、画像処理技術には、実は高校数学で習って以降、私の中では全く使うことのなかった行列の計算が使われているということも述べられており、何に必要なのか一見わからないことでも、実はいろいろなところで実は使用されており、その恩恵にあずかっていることを感じさせられました。今回はこの本の第1章のさわりの部分について紹介しました。
まだまだご紹介したい内容がたくさんあるのですが、続きはまた次回以降で。