初の全身麻酔による手術体験(ケセラセラ vol.74)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長
吉田 栄治
8月16日に、全身麻酔による手術を受けてきました。初の体験でした。その手術に伴い、クリニックの私の診療は8月15日から8月28日まで2週間、お休みさせていただきました。患者の皆さんには、いろいろご不便をおかけしたかもしれませんが、ご理解のほど、ありがとうございました。皆さんからは、いろいろと温かいお言葉掛けをいただき、大変励みになりました。
手術になった経緯につきましては、クリニック・ホームページのフクロウ・ブログのコーナーに6月21日付の記事で『8月の休診について』と題しまして書かせていただきましたが、再度、ご紹介させていただきます。
発端は5月中旬の診療中に起こったしゃっくりでした。なかなか止まらない状況が2日間続きました(今から思うに食べ過ぎによる胃もたれが原因だったようです)。以前から、月に1回、土曜日に、同級生が院長をしている内科病院に診療のお手伝いに行っていまして、その際にしゃっくりの件を相談しましたら、念のため胸腹部CTを撮っておこうということになり、そうしたところ、左肺後部に親指大の腫瘍が見つかってしまいました。胸部レントゲン写真ではなにも写っておらず、CTを撮らなければ、きっと見つからなかっただろうと思われます。
ちょうどその日は、大学から放射線の専門の先生が来ており、すぐにCT画像を見てもらうことができ、「たぶん良性のものでしょうが、一度、呼吸器の専門医に診ておいてもらってください」とのコメントをいただけました。胸部外科医もおりましてそちらからも、「2、3ヶ月経過を見て、変化がなければ、そのまま様子を見ていいのではないでしょうか」ということで、ほっと一安心しました。同級生の内科医からは、呼吸器外科の教授になっている優秀な後輩がいるから、ぜひ、そこで診てもらったらいいということで、紹介状を書いてもらい、1ヶ月後にJ大学附属病院を受診することとしました。
6月17日(月)に、家内と一緒に受診をした結果は、「たぶん良性のものでしょうが、こればかりは、取ってみないと分からないので、手術をして取ってしまいましょう」ということになりました。良性であれば、数日の入院で大丈夫でしょうということでした。手術となるとクリニックをしばらく休むことになり、その間の患者さんの診療をどうしようかと、そちらのほうが心配でしたが、2ヶ月後の8月16日に手術ということになりました。腫瘍についてはきっと良性だろうとタカをくくっていました。
7月22日(月)に再度受診をして、手術が最終決定になりました。手術に対する心配はあまりしていませんでしたが、もしもの時に備えて、家族には大事なものの置き場所などについて伝えておきました。
手術前日に入院し、担当医から手術に関する詳しい説明(合併症などの怖いことも含めていろいろ)がありました。胸腔鏡補助下による左肺下葉の部分切除術(左肺は上葉と下葉の二つに分かれています)を行い、術中に病変部の迅速病理診断を行って、良性であれば1時間半ほどで手術は終わり。もし悪性の細胞があった場合は、開胸創を広げて、左肺下葉の全摘出術と気管支周辺のリンパ節郭清術に切り替えとなり、手術時間も3時間ほどになるとのことでした。
手術当日は朝一番で8時半に歩いて手術室に入室。脊椎に痛み止めの薬を入れる管を刺された後は、静脈注射ですぐに眠ってしまい、麻酔中の事は何も覚えていません。気がついた時には手術室の隣の回復ルームのベッドに横になっており、看護師さんに「大丈夫ですかあ?」と声を掛けられ、「はい」と返事をして、すぐに「今何時ですか?」と確認をしました。「10時10分ですよ」と言われ、「ああ、良性だったんだな」と思いました。胃のチューブが鼻から喉を通してまだ入れてあり、ちょっと苦しい感じがありましたが、いつも患者さんにすすめているゆっくり息を吐くという呼吸を心がけて、喉の事はあまり気にしないように努めました。
その後、ベッドごと病棟に移動し、看護室の隣の部屋で1日過ごしました。朝早くから病院に来て待機してくれていた家族は、午後2時過ぎには家に帰り、私もその後は寝て過ごそうと思っていたのですが、それからが辛い時間でした。脊椎に麻酔の管が入っており、傷の痛みはなかったのですが、眠れないんですね。少しうとうとして、1時間くらい経ったかなと思って、腕時計を見ると数分しか経っていないという状況が延々と続きました。翌朝になれば、水を飲むことができ、歩行訓練も始まるということで、一刻も早く、翌日の朝になってほしいと思うのですが、全く時間が進まないんです。身体には、いろいろの管が入っていて自由が利かないし、喉はからからに乾いているし、何か本でも枕元に持ってきておいてもらえば良かったと、心底思いました。瞑想やらマインドフルネスを実践する絶好の機会だったかもしれませんが、日ごろの訓練が足りませんでした。夜中になっても全く眠ることができず、夜通しずっと悶々としていました。少しオーバーかもしれませんが人生で一番長く感じた1日でした。朝方4時頃になり、ああ、ようやくあと2時間ほどの辛抱だと感じました。
朝6時になり担当の若い先生がやってきて、ベッドを起こし、少し水を飲ませてもらえました。その後は、歩行を始めて、いろいろの管が抜けて、お昼からは食事が開始になりました。おいしく全量摂取できました。夕方には一人でシャワーも浴びることができました。開胸創は5㎝ほどですみ、経過は順調で、翌日には退院して、後は自宅で療養ということになりました。肺の手術をして2日後には退院というのはびっくりですね。私が大学病院にいたころであれば、少なくとも1週間は入院だったかと思います。技術の進歩というものはすごいなと感心しました。
退院後は10日間ほど、自宅でゆっくりと静養させていただき、体調を整えて、8月29日から無事、仕事に復帰しました。皆さんにご心配をおかけしましたが、今はもうすっかり元気ですので、ご安心ください。50代も半ばにかかり、自分の健康にも留意しつつ、日々の診療を頑張っていかねばと、気持ちを新たにしています。