抗うつ薬をめぐる誤解と偏見 その1(ケセラセラ2023年10月号 vol.116)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック
院長 坂元薫
うつ病治療の柱は認知行動療法などの精神療法と薬物療法です。
その薬物療法の主役は抗うつ薬なのですが、まだ誤解や偏見があるようです。その点について数回に分けてお話ししていきたいと思います。
① 「うつ」は気の持ちようでなるもので薬は無効である。
② 薬に頼るのは情けない、薬に頼らず精神力で治したい。
このように考えるひとは決して少なくありません。というよりはじめはほとんどのひとがこう考えていると言っても過言ではないかもしれません。
しかし、うつ病は性格の弱さが原因でなるものではないのです。うつ病になると生じる脳内の神経伝達物質のバランスの乱れを是正するのが抗うつ薬なのです。
そして現在、うつ病の治療としてもっとも確立しているのが抗うつ薬による薬物療法、すなわち抗うつ療法なのです。
数多くの長期にわたる厳密な臨床試験で、偽薬に比べて明らかに有効であることが実証されたうえに安全性も確認されているのです。つまり有効性と安全性が科学的に実証されているのです。
③ 一度飲み始めたら、どんどん量を増やされて止められなくなるのではないか。
このような不安を抱くのはもっともなこととも思われます。
ネットの記事で「抗うつ薬は止められなくなってしまう怖い薬だ」と書かれているものがあり、かなり拡散していてこれを信じておられるひとも少なくないようです。
なかなか止められない「怖い薬」は、あとでお話しするベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパスなど)のことだと思うのですが、なぜかネットでは抗うつ薬がやり玉に挙げられているようです。
あるいは抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬の区別もつかないようなひとたちがネットに書き込みをしているのかもしれません。
しかし抗うつ薬は、例外的に最初から十分量を服用できる薬があるものの、ほとんどの抗うつ薬が少量から始めて効果を発揮する十分量まで身体にならすため少しずつ増やしていく必要があるのです。
そのような説明なく、受診のたびに抗うつ薬が増量されたら「行くたびにどんどん薬が増やされる」と思われるひとがいても不思議ではありません。
これは抗うつ薬を初めて処方するときにそのような説明なしに処方してしまう医師にも問題があることだと思います。
またうつ病が寛解した後には、再発予防のため半年から1年程度は服薬を続ける必要があるのですが、その後は徐々に減量して中止することは可能なのです。
ただSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をはじめとする新規の抗うつ薬は、減量や中止の際に頭のふらつき、動揺感などの中止後症状といわれるものが出ることが多いのも事実です。そのため慎重に減量し中止へと持っていくことが必要となるのです。