胃食道逆流症のはなし(ケセラセラVol.77)
医療法人和楽会 横浜クリニック院長 工藤 耕太郎
「ストレスを感じると吐き気がする。」
「ストレスを感じると胸の痛みがする。」
そういう症状でお悩みの患者さんもしばしば受診されます。
慢性的に吐き気を感じているために、例えば「満員電車に乗って吐いてしまったら」「外で食事をして吐いてしまったら」と考えるようになり、行動範囲が制限されてしまうことがあります。
吐き気や胸の痛みを感じているため、患者さんは内科にまず受診します。内視鏡の結果、「胃は問題ありません。精神的なものじゃないですか。」と説明を受けて精神科や心療内科に受診するようになります。
ここで、もう一度振り返らなければいけないことは、胃が問題なくても吐き気や胸痛が出現することがありうるということです。あまり聞きなれないかもしれませんが、胃食道逆流症という病気があります。胃液が食道に逆流することにより食道が炎症を起こす病気です。
「内視鏡で食道も観ているのでは?」という疑問が起きるかもしれませんが、実は胃食道逆流症という病気は、粘膜病変が内視鏡で認められる(逆流性食道炎)と粘膜病変が肉眼的にはっきりしない(非びらん性胃食道逆流症)の2つが存在します。どちらの場合も組織をとってきて顕微鏡的に観察すれば炎症は存在するのですが、現在のところそのような検査は行われません。従って内科で内視鏡検査を行っただけではこの病気は否定できないのです。
また非びらん性胃食道逆流症という概念はここ10年でできあがったものなので、やや年配の消化器内科医は知らない可能性があります。
2012年のyearnote(国家試験用の参考書)によれば、胸やけ、胸の痛みなどがあり、精神的興奮等で誘発され、時に嚥下困難を伴う場合には、逆流性食道炎を疑う。とされており、今、医師免許を取るならば必ず知らなければならない知識となっています。
それでは、どのような検査を行えば胃食道逆流症の診断ができるのでしょうか。もっとも確実な検査は24時間PHモニタリングです。PHメーターという酸やアルカリを測る測定器を24時間食道に留置することにより食道内が酸性になっていることを証明します。しかし、この検査はあまりにも患者さんの負担が大きい上、行っている病院は少ないです。ですから一般的にはPPIテストと言う方法を用います。PPIというのはプロトンポンプ阻害薬と言われる胃酸の分泌を抑える薬です。これを最大量で1週間飲むことにより症状が緩和(完全によくなるわけではない)されるかどうかを観察します。症状が緩和されたら胃食道逆流症の治療を続けて行っていきます。
それでは胃食道逆流症とはどんな症状があるのでしょうか?
胸やけ
胸痛
はすでに記しましたが、それ以外にも
喉のつかえた感じ
かすれ声
原因不明の頑固な咳
なども胃食道逆流症の症状です。胃酸の逆流により喉全体が炎症を起こすことからこのような症状が出現するのです。
さて、胃食道逆流症により特定場面への恐怖心を学習してしまっている患者さんも多くいらっしゃいます。この場合、学習の結果を解除するために行動療法や抗うつ薬を使用することも考えられるかもしれません。ただし胃食道逆流症自体の治療を行わない限りは、根本的な吐き気や胸やけが減少しないので、効果が薄いと私自身は感じています。