子どもの不安症を見逃さない!②(ケセラセラ2024年8月号 vol.126)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
2.不安症の子どもはどんな訴えをするのでしょうか? パニック症の場合
では、不安症の子どもは実際にはどのようなことを言うのでしょうか?以下に主だった訴えをあげてみます。
表1 不安症の子どもの訴え
① 学校へ行くと吐き気がする
② 朝になると学校へ行くのが嫌になる
③ めまい
④ 学校へ行くとお腹が痛くなる
⑤ 理由がなく教室に入るのがおっくう
⑥ 発表するのが怖い
⑦ じろじろ見られるのが嫌
⑧ 頭痛がする
⑨ 通学の乗り物に乗れない
⑩ 給食の時間が辛い
⑪ 先生が怖い
⑫ 学校へ行くと食べられない
⑬ おならをしたのではないかと不安になる
⑭ ヒトから臭いと思われているのではないかと不安になる
⑮ 教室に入ると息苦しくなる
⑯ 満員電車が辛い 心臓がどきどきする
⑰ 友達に自分の悪口をささやかれている
次に実際の事例を見てみましょう。
事例1 ―パニック症の父親に連れられて来院した小学校3年生の女児―
【主な訴え】
遊んでいるときに、わけもなく急に不安になり泣き出す;学校、教室内に長い時間いられない;匂いに対する気持ち悪さのため、食事があまりとれない。
【それまでの経過】
小学校1年生の5月、給食が始まると泣きました。
小学校2年生になると、学校で給食の時間以外でも泣くようになりました。以来母が同伴で通学し、1人になることが出来なくなりました(分離不安障害)。
小学校3年生になり、匂いに過敏になってきました。また、吐き気と心悸亢進があると言って教室から突然飛び出すことがありました(パニック不全発作)。
【初診後の経過】
少量のSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)による治療を開始し、1か月後には料理の匂いを嫌うことはなくなり、1人で学校に行くことが増えました。8か月後には、突発的な自律神経症状(吐き気と心悸亢進―不全パニック発作)は完全に消えており、明るくなり、1人で登校できるようになり、給食も食べて帰るようになりました。その後もSSRIを少量服薬し続けて中学校を無事卒業できました。
【事例の解説】
不意に突然不安になる状態を発作と言います。その典型例はパニック発作です。図1にパニック発作の症状を示します。このうち、4症状以上あるとパニック発作と言いますが、3症状以下はパニック不全発作と言っています。この事例のように、小児ではパニック不全発作のことが多く、小児の不安症が典型的な病像を示すことは稀です。
この女児の診断はパニック症ですが、パニック症を発症する前にすでにその前駆状態がいくつか見られます(表2)。この女児はこの中の①③⑥がありました。また、お父さんがパニック症であることもポイントです。
現在パニック症の治療の第一選択薬であるSSRIの効果は大変高く、重大な副作用も多くありません。規則に従って服用すれば、その人の人生が変わるほどの作用があるお薬です。
表2 パニック症になる子どもの特徴 (貝谷、2010)
① 突発性の自律神経症状(吐気、めまい、立ち眩み、頭痛、腹痛など)
② 病気に対する著明な恐れ
③ 別れに敏感
④ 慣れ親しんだものや状況から離れるのが難しい
⑤ 安全の再確認を要求する
⑥ 刺激性の飲み物や食品に過敏(匂い、味、不快な音)
以上から3つ以上ある子はパニック症になる確率が高い
貝谷 久宣 他 (2016). パニック症は軽症化しているか 臨床精神医学, 45(1), 57-62.
貝谷 久宣 (2010). 子どもの不安障害とパニック障害 健康教室「Information PLAZA」 2010年11月号, 東山書房.