子どもの不安症を見逃さない!③(ケセラセラ2024年9月号 vol.127)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
3.子どもの不安症にはパニック症以外にどんな病気があるのでしょうか?
以下に子どもの不安症についてほぼ年代順に簡単に説明いたします。
①激しいひとみしり(乳幼児から)
恐怖とか不安といった感情は生後6か月前後に初めて出てくるといわれています。そして、愛着対象である母親とそれ以外の人の区別がつくようになると、母親でない人に対して恐怖心を抱きます。これは個人差が強いですが、親が神経質な場合には極端に他人を怖がります。ひとみしりの強かった子は、その後対人恐怖が出てくる割合が非常に高いという研究があります。
②分離不安症(幼時期から)
自立心が育まれていく過程で母親(愛着を持つ人)から離れることに過剰な恐怖や不安を抱く状態です。はじめて母から分かれて保育園においておかれるときに泣く子は多いですが、これがかなり長期に激しく続けば病的であるといえるでしょう。不安の表現は、家から離れることに抵抗したり、悪夢や身体症状で示されることもあります。
③限局性恐怖症(幼時期から)
ある特定の対象(動物、血液・注射など)または状況(暗所、高所、閉所、嵐、大きな音など)に対して、過剰な恐怖感を持続的に持つ状態です。ヘビとか視線などに対してヒトは本能的な恐怖を持つこともわかっています。
④選択的緘黙(学童前期から)
普段は話すことができるのに、特定の社会的状況(例えば学校)では話すことが一貫してできない状態です。
⑤全般性不安症(学童前期から)
現実にはありえないようなことを予期不安し、それにいつまでもこだわり本来の生活に大きな支障をきたす状態です。例えば、両親が死んでしまったらどうしようとか、些細な体調の変化を大変な出来事のように思い、悩み続けます。
⑥強迫症(学童期から)
不適切で意味のないことと分かっていてもある事柄に注意が集中し、それが自分の意思に反し出現し、不安を持ち続ける状態です。すなわち、激しく病的にこだわる状態です。手を洗ってもまだ汚れているという不安から抜け出せず洗い続けたり、施錠したかどうか不安になり何度も確認するなどの強迫行動や、不吉な考えを取り払えないといった強迫観念としても出現します。
⑦社交不安症(対人恐怖)(小学校高学年から)
自我が芽生え、他人から自分の容貌や能力が低く見積もられることが恐怖の対象となります。結果的に注目される状況を忌み嫌い避けます。また、そのような状況に立たされると精神的緊張とともに身体的不安症状(例:赤面、手足や声の震え、顔や全身のこわばり、心悸亢進、発汗など)がみられます。
⑧広場恐怖症(高校生以後)
体調が悪くなったときに、すぐ逃げ出せない場所、または助けを求めることが出来ない状況を恐れる恐怖症です。満員電車に乗ると気分が悪くなって途中下車してしまうといった軽い状態のときは見逃されることが多いです。パニック症に引き続き発症する場合と、広場恐怖がありパニック発作が出現する場合があります。パニック発作が全くない広場恐怖もあります。
⑨パニック症(学童初期から)
青天の霹靂のごとく突然パニック発作(前号参照)が出現し、それを繰り返すと、“またあの発作に襲われるのではないか”という予期不安が強くなり、そのために生活上の支障が出てきます。パニック症の9割は、ここまでに述べてきた8つの不安症のいくつかを既往歴として持っています。