子どもの不安症を見逃さない!⑥(ケセラセラ2024年12月号 vol.130)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
5.こだわり症の事例
事例5 ―嘘をついたら地獄に行くのを恐れる年長さん―
Eさんは明るく利発な子です。
2年前(年少時)、保育園での友人とのやり取りについて母親に嘘の報告をしました。その際に、母親から「嘘をついたら、地獄とか天国とかに分けられてしまうかもよ」と言われて以降、さまざまな場面で「自分が言っていることが事実であっても、嘘なのかもしれない」という思考が芽生えるようになりました。自分が話したことに対して、後から「嘘を言ったのではないか」と母親や保育園の先生への確認が増えました。それと同時に、問いかけに対するスムーズな応答が難しくなっていきました。
初診1か月前には、母親に着替えやトイレがしっかり出来ているかの確認行動が増加し、不安が高まっていました。
そして、夕方になると、嘘かどうかについて言及しなくても、自ら「嘘ついちゃってごめんなさい」と泣き叫んだり、母親を責め叩くなどの癇癪が出るようになりました。朝になると、保育園への登園しぶりが出ましたが、何とか通園していました。
診察では、小児強迫症の診断がなされごく少量の向精神薬(抗不安薬は除く)が処方され、母親へのカウンセリングが始まりました。
最近では小児不安症の心理療法は専ら保護者に対するカウンセリングがメインです。ここでは、母親への支持的傾聴、心理教育(強迫症の巻き込み症状の理解や、曝露反応妨害法についての教示)、家庭や保育園での強迫行為の観察や、関わり方のアドバイスなどが実施されました。
そして、治療1か月後には症状は半減し、4か月後にはほぼ平常の状態に戻っていきました。ただ、まだ、ごく少量の向精神薬は予防的に処方されています(この事例は保護者の了承を得て個人情報が明らかにならないように記しました)。
図は不安症全体の特質を示したものです。最近、強迫症は不安症とは別個に取り扱われていますが、不安を持つことには変わりなく、私たちは治療的には不安症として扱っています。
強迫症と鑑別を要する重要な病気は自閉スペクトラム症です。また、強迫症は他の精神疾患と合併したり、病気が慢性化しやすい傾向にありますから、早期発見・早期治療が患児のその後の人生にとって非常に大切です。
強迫症のスクリーニング
以下のことで強く悩んだり生活に支障が出ている。
1.手洗いを丁寧に長い時間する。
2.間違いがなかったか何度でも確認する。
3.同じ考えが浮かび、自分で考えに耽ることをやめられなく、苦しむ。
4.自分の動作に順番を付けその通りにしないと気が済まない。
5.片づけることが好きで整理整頓を徹底的にする。
(Krebs G, et al. Arch Dis Child 2015;100:495–499.doi:10.1136/archdischild-2014-306934)