機能性内科疾患と精神疾患(ケセラセラvol.79)
医療法人 和楽会 横浜クリニック院長 工藤 耕太郎
身体の病気でありながら、なかなか証拠の見つからなかった疾患群が最近知られるようになってきました。
たとえば、胃食道逆流症は一昔前までは食道に炎症やびらんがみられる逆流性食道炎のみしか知られていませんでした。現在では、内視鏡で炎症やびらんがないように見えても、組織を観察すれば炎症が見つかることがわかってきたため、非粘膜びらん性胃食道逆流症という診断ができました。
起立性調節障害や血管迷走神経反射という病気も最近はどんな学生向けの教科書にも記載されるようになってきました。
もちろん睡眠時無呼吸症候群なども知名度を上げております。
普通の採血やレントゲンなどで見つからないが、身体に異常がある状態というのものが、ここ10年は多く知られるようになってきました。これらの病態に関しては、すぐに精神的な問題とされ精神科や心療内科を初診することは、そう珍しいことではなくなっています。
しかし、身体疾患の除外を行ってから精神科の診断をつけるというのが、今から100年以上前に精神医学が内科から分離したころよりの伝統です。現在、広く用いられているアメリカ精神医学協会のDSMという診断基準も、目次を見れば明らかに身体疾患による精神症状から順に記されております。
過去20年の内科学の進歩により、それまでは、いわゆる「神経症圏」と呼ばれた疾患群が、実は体の病気であることがわかってきました。
過去20年に関しては、「うつ病」、「不安障害」などの、未曾有の疾患喧伝が行われた結果、精神的不調を感じる患者さんが精神科や心療内科を受診するようになっています。
ただ、ここで一つ振り返らなければいけない問題があります。ほとんど全ての内科疾患に罹患した患者さんは、「抑うつ、不安状態」を呈するのが当たり前という事実です。
特に、身体的な損傷の見つかりにくい機能性内科疾患が精神疾患と誤診される症例は今後増加していくでしょう。
証拠が単純な検査で見つからないから精神的、あるいは精神医学的な問題だとするのは、もはや今では時代遅れの考え方です。まず、身体から、これは精神医学の基本であり過去200年の伝統を守ったものです。
身体的に問題があれば、抑うつや不安が出現するのは当たり前のことです。これから受診する患者さん、そして今受診している患者さんもそれを理解すること。そして、多くの精神科医がそれを理解することが、多くの患者さんの苦痛を減らす第一歩だと思っております。
そして、一度、「抑うつ、不安状態」が惹起された場合、それが精神疾患によるものであれ身体疾患によるものであれ、認知療法を含めた心理療法は有効であると考えております。身体疾患によるものだからといって、精神科あるいは心療内科での治療が必要でないものと断じているわけではないことを、これを読まれた患者さんにご理解いただければ幸いです。