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マインドフルネスの臨床効果と脳科学③ マインドフルネスを続けると長生きしますかーその1(ケセラセラvol.94)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

まず、話の順序として長生き遺伝子といわれているテロメアについて簡単に説明しましょう。人間のDNAの末端にはテロメアと呼ばれる特定の塩基の繰り返し配列があります(図1)。このテロメアは細胞分裂をするたびに短くなっていきます。テロメアには遺伝情報は含まれていませんが、テロメアがあることにより意味のある遺伝子配列が失われないようになっています。細胞分裂を繰り返しテロメアが短くなりすぎるとそれ以上細胞分裂ができなくなってしまいます。それが老化です。

図1

そのためテロメアは細胞の寿命ひいては生体の寿命に関係すると考えられています。ここに短くなったテロメアを修復する仕組みがあります。テロメラーゼという酵素はテロメアの反復配列を追加することができます。精神的ストレスが細胞の酸化ストレスを生じテロメアの老化を早めるといわれています。ですからストレスと上手につきあえる人では老化の進み方が遅くなります。以上のことからテロメアが寿命に関係することが理解できます。

 

最近、マインドフルネスによりテロメアまたはテロメラーゼの変化が起こるかという重要な研究がいくつか報告されています。カリフォルニア大学デービス校の研究者たちがこの問題に最初に取り組みました。彼らが研究対象にしたのはマインドフルネスのベテランです。それまでの平均瞑想期間 13 年間、累積瞑想時間が約2500時間、 5日間、一日 6 時間前後の瞑想をするリトリートに 10 回前後は参加している人たちです。このような人たち 60人を半分に分け、一方の 30 人は 1 日 7 時間前後の瞑想を続ける 3か月間のリトリートに出席した人たちです。対象となるほかの 30 人は自宅で待機する人たちです。 3 か月のリトリート後に採血して単核細胞のテロメラーゼを測定し、リマインドフルネスの臨床効果と脳科学トリートに参加しなかった人のものと比較しました。その結果リトリートに参加した人のテロメラーゼは参加しなかった人のものと比べ統計学的有意に増加していました(エフェクト・サイズ 0 .54 )。また次のような3つの心理検査がリトリート前後で測定されました。「Five Facet Mindfulness Quest」39 問からなるマインドフルネスの 5因子(体験への気づき、気づきをもった行動、内的体験への非反応性、感覚への気づき、体験に対し判断なしの受容)を測定する尺度は、マインドフルネス・リトリート後に上昇、生きる意味の自覚と苦境に挑戦できる意志力の程度を測定する「人生の意義とコントロール感」尺度でも上昇した。神経質の程度を測定する尺度では神経質傾向は減少しました(図 2 )。このように、マインドフルネス訓練をすることによりテロメラーゼ値が上昇し、それに伴って精神的な健康度も増進したことが示されました。

図2

ガン患者さんではどうでしょうか?

乳がんの手術後約 2 年の平均年齢 55.3 歳の患者さんたち 70 名が 6 週間のマインドフルネス練習をしました。 64 人はマインドフルネスをしない乳がん手術後の同じ状況の患者さんが比較対照となりました。その結果、テロメアの長さが両群とも少し伸びましたが、その後 6 週間したらほぼ元の長さになりました。ところが、テロメラーゼはマインドフルネス訓練が終わった 6 週間後には対照と比べて統計学的有意に増加していました。さらに、興味深いことにはマインドフルネス訓練が終わった 6 週間後でもさらに増えていました(図 3)。
図3
これらの研究からわかることは、最初の研究の対象者のようなベテランでなくとも、マインドフルネスの経験がない人でも毎日練習すれば効果が上がるということです。さらに、その効果はかなり長続きすることです。ですから、毎日少しでも良いからマインドフルネスをすれば、ストレスに強くなりテロメラーゼが活発になるということができます。

では、テロメラーゼ活性が上がっていると本当に長生きできるのでしょうか?
この問いは次回の問題にいたします。

文献
Jacobs T.L.ら Psycho neuro endocrinology. 2011, 36:664
Lengacher C.A.ら  Biol Res Nurs. 2014、16:438

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